「夜鳥くん!! 雨美くん!!」


 私が叫ぶと二人の視線が一瞬だけこちらに向き、次の時には一気に妖狐達が蹴散らされる。
 そのあまりの早業(はやわざ)に驚いていると、私の目の前に二匹の妖獣が降り立った。


「よぉ、雪守。案外元気そうじゃねぇか」

「道すがら先生から聞いたよ。雪守ちゃんの事情、そして九条様の事情もね」

「!! 二人とも……!!」


〝二人こそこんな無茶をして、ケガはない?〟

 そう問おうとして気づく。
 ……夜鳥くんと雨美くんの表情に。

 もちろん今の彼らは妖獣の姿。細かな表情の機微なんて無い。
 でもそれでも私の目には、二人が拗ねているのがよく分かった。

 私はそっと蛟と鵺の頭を撫でて、俯く。


「……ごめんね。私が雪女の半妖だってこと、ずっと言えなくて。二人との付き合いが一番長いのにね」

「…………」


 私の言葉に二人は沈黙し、やがてふてくされたようにポツリと言った。


「そうだよ。元々護衛だった木綿先生はともかく、九条様に不知火(しらぬい)さん。更には魚住さんまで知ってるっていうのに、ボク達だけが知らなかったなんてさぁ」

「オレらが信用できなくて言わなかったのかと思ったぜ」

「!」


 その言葉にハッとして、私は必死に何度も首を横に振る。


「ちがっ! 違うよ!! そういうんじゃなくて……!!」

「なくて?」

「なんだよ?」

「う……」


 こちらをジッと見る、強い視線を感じる。
 それにかなり言い辛さを感じるが、しかし言わない訳にはいかない。私は観念して、そっと口を開いた。


「その、なんというか……。単に言ったつもりでいたというか……」

「は?」

「だから! なんか二人には隠してるって自覚も無かったの!! 素の自分でいるのが当たり前過ぎて……」

「え」


 バカみたいだが、それ以上の理由はない。
 恥ずかしくてもじもじとしていると、蛟と鵺はポカンとしたように目を丸くする。

 そして二人同時に、何故か深い溜息をついた。


「雪守ちゃんってさぁ……」

「分かってたけど、魔性だよなぁ……」

「? どういう……」


 意味が分からず俯いていた顔を上げると、不意に両頬にツンっと柔らかい感触が当たった。
 チラリと見えた感触の正体は、蛟と鵺の口元で――……。