「出たか、九条家暗部」

貴女(あなた)達……」


 突然現れた狐面の集団を三日月さんがぐるりと見回す。
 すると暗部達は申し訳なさそうにしながらも、臨戦態勢を崩さず話し出した。


「申し訳ありません、暗部長様。しかし我らが為すべきことは、主様(あるじさま)のご命令を厳守すること。それこそがあの方への恩返し(・・・)になる(・・・)。例え相手が貴女様であろうとも、皇女をここから出す訳にはいかない。阻ませて頂きます」

「そう……」


 三日月さんが狐面をそっと顔につけ、その姿が一瞬で白髪の老女から若い女性へと変わる。


「――いいでしょう。かかって来なさい」


 瞬間、一斉に暗部達が飛び掛かり、激しい攻防が始まった。
 狐火が地下室のあちこちに飛び交って、私は悲鳴を上げて逃げ回る。


「ひぇぇぇぇ!! 熱ッ!!」

「皇女殿下! うろちょろせず私の後ろに居なさいっ!」

「ぐえっ!!」


 宰相さんに思いっきり首根っこを掴まれて、私の喉からカエルが潰れたような声が上がる。
 するとそんな私をギロリと睨みつけ、宰相さんは深い溜息をついて言った。


「いいですかな、皇女殿下。庶民育ちと言えども、貴女は皇女なのです。緊急事態の時こそ、どっしりと構えていなさい」

「いやいやいや! それ知ったのたった今だし、そんな急に高貴な立ち振る舞いなんて出来ませんよ!! ていうか早く三日月さんに加勢しないと!!」

「心配せずとも、三日月殿は九条家最強のアサシン。下手に手を出す方が彼女の邪魔になります。……それに」

「!?」


 私達を取り囲む暗部達を見て、宰相さんがニヤリと笑う。
 は、初めて笑うところを見たけど、めちゃくちゃ邪悪な笑みだ……!!


陛下が(・・・)寄越したのが(・・・・・・)、私と三日月殿だけと思いましたかな? いるのだよ、もう一人(・・・・)