「……分かりません。陛下もこの件については何も語ろうとはなさらなかった」
「それだけはありません。紫蘭様も全能術を自身に使うことを拒否されたのです」
「!? そ、そうだったんですか!?」
「望みを断たれ、救おうとしている当人にまで拒まれ、姫様のお心はズタズタに引き裂かれました。それからです、誰の言葉も耳を貸そうとなさらなくなったのは」
「…………」
手の届く場所に紫蘭さんを救える術があるのに、届かない。
それはなんの手立ても無かった頃よりも、よほど辛かったのではないだろうか。
彼女の嘆き悲しみは、聞いているだけでも容易に想像出来てしまう。
「もしかしてそれで陛下とお母さんに復讐を……? でもなんでお母さんまで?」
「実は葛の葉殿が全能術のことを聞いたのは、風花殿からだったようです」
「えっ……!?」
お母さん……!
てっきり無関係なのかと思ったら、ガッツリ事情に関わっていたんだ……!!
「ぬか喜びさせられた挙句、当の本人の隣には陛下がいる。絶望の淵に立たされた自身に対し、幸せを謳歌する二人を見て、憎悪を滾らせてもなんらおかしくはないでしょうな」
「…………」
「そして姫様の憎悪はお二人だけに留まらず、紫蘭様、ひいては妖狐一族全体にまで及びました」
「い、一族全体……?」
それはどういうことなのだろう?
ゴクリと息を呑んで続く言葉を待っていると――……。
「――そこまでです、暗部長様」
冴え冴えとした声と共に地下室の中にいくつもの火が現れ、狐面の巫女服達が次々と姿を表す。
それにビクリと肩を震わせると、宰相さんがサッと私の体をその背に隠した。
