「ふふ、安心したところで話を戻しましょうか。葛の葉様と紫蘭様は始まりこそ決められた関係ではありましたが、それでも仲はとても良好でした。常に次期当主として強くあらんと振舞われていた葛の葉様も、紫蘭様と過ごす時だけは素の少女らしい表情を見せていたのです。しかし……」
「? なんですか?」
そこまで朗らかな表情で話していた三日月さんの顔を曇る。
まさか……。
「紫蘭様の病。それが徐々にお二人の関係に影を落とすようになったのです」
「……!」
やっぱりと息を呑んだ私に、三日月さんが頷く。
「お察しの通り、以前皇女殿下にもお話した、妖狐一族男子のみが罹患する原因不明の奇病です。症状は紫蘭様が長ずるにつれて重くなり、一日床に臥す日も増えていきました。本来の紫蘭様は本当に活発な方で、よく皇帝陛下ともあちこち出掛けられておりましたのに……」
「ええ、私も存じております。幼い頃の陛下と紫蘭殿はとんだ悪ガキで、私も何度も手を焼いたものです」
「……っ」
遠い日のことを懐かしむように目を細める二人に、胸がぎゅっと苦しくなる。
紫蘭さん……。こんなにも色んな人が惜しむなんて、本当に素敵な人だったんだろうな……。
「葛の葉様は紫蘭様の病を治す為、あらゆる手を尽くしました。それこそ帝国中の高名な医者を訪ね歩くほどに」
「……九条葛の葉は、それだけ紫蘭さんが好きだったんですね」
「はい。あの真っ暗に閉ざされた九条家で、紫蘭様は姫様にとっての唯一の光でしたから」
「?」
真っ暗……? どういう意味だろう?
意味深が言い方が気になるが、三日月さんはそれについては何も語らず、話を続ける。
「医師を訪ねたこと事態は、決して無駄足ではありませんでした。発作の間隔を細かく調べ、素早く発作を鎮める呼吸法などの知識も得られましたから。しかしそれらは進行を緩やかにする為の気休めでしかない。病は着実に紫蘭様のお身体を蝕んでいきました」
「…………」
「もはや打つ手なし。姫様は決して涙を見せることはありませんでしたが、心ではずっと泣いていたのでしょう」
「っ、」
三日月さんの言葉に私はぎゅっと自分の両手を握り締める。
大切な人が目の前で苦しんでいるのに何も出来ない歯がゆさ、悔しさ。
それを九条葛の葉も体験していた……。
『それもご明察。そうじゃ、あの狐面の暗部は妾が化けたもの。見たか? 風花の苦痛に歪んだ顔。いつも飄々としている女が膝をつく様は全く傑作じゃったなぁ』
だったら何故、あんなことが出来たの?
大切な人を喪う痛みがどんなものかを知っている、そんな人が――。
