「はい、それで間違いありません。更に言えば、私は姫様……。いいえ、葛の葉様にも幼少の頃よりお仕えしておりました」
「え、九条葛の葉の!?」
「ええ」
驚く私に三日月さんは頷き、まるで昔を懐かしむかのように表情を緩めた。
「葛の葉様は、それはそれは幼い頃から聡明で立派なお方でした。三大名門貴族の次期当主として恥ずかしくない人物になる。その為に日々研鑽を積んでおられました。そしてそれはご婚約者であった紫蘭様も同じ」
「紫蘭さん……。九条くんのお父さんですね」
「はい。紫蘭様と葛の葉様はいとこ同士であり、生まれながらの許嫁でした」
「いいなずけ?」
生まれながらってことは、自分の意思とは関係なく結婚相手を決められていたってことか。
私には理解しがたい話だけど、皇帝陛下にもお母さんと結婚する前には婚約者が居たって言うし、やっぱり身分が高い人はそういうものなんだろうか?
「……? って、ああっ!?」
そこまで考えてハッとする。
えっ、じゃあ九条くんは!? そんな話一回も聞いたことはなかったけど、九条くんだって生まれながらの婚約者が居てもおかしくないんじゃ……!?
慌てて三日月さんにその旨を話すが、しかし返ってきたのは意外な答えだった。
「落ち着いてください、皇女殿下。神琴様に婚約者はおりません」
「へ」
「当時はそういう時代だった。だが現在は庶民と同じく、貴族の間でも恋愛結婚が主流。貴女のご友人の貴族子息達からも、婚約者の話なんぞ出たことは無いのではないですかな?」
「あ」
宰相さんの言葉に、私は目をパチパチと瞬かせる。
言われてみればそうだ。九条くんは元より、雨美くんや夜鳥くんからも婚約者なんて言葉、一度も聞いたことが無い。
「なんだぁ、そっかぁ……」
私がホッと胸を撫で下ろすと、三日月さんがクスクスと笑った。