「瞳うるませて上目遣いで言うことはそれだもんな……、参るよ」

「ちょっ!?」


 よく分からないことを言いながら、九条くんがずるずると私にもたれかかってくる。いやいや、重いんですけど!


「何やっぱり具合悪いの!? ほらもー無茶するから!」

「あーホント疲れた。俺を癒してよ、雪守さん」

「!!?」


 そっちこそ上目遣いで私を見てくる九条くんに、二の句が継げない。なんだ!? あざと可愛いとでも言ってほしいのか!? 
 いきなり甘えモードに入った九条くんに混乱するが、無駄に疲労させたのは事実だ。労いの気持ちも込めて、私は氷の妖力を手に込め、いつものように九条くんの額に当てる。


「…………」


 すると九条くんの額から薄っすらと流れていた汗がみるみる引き、呼吸も先ほどよりずっと穏やかなものになる。
 相変わらず自分でも驚いてしまう凄まじい威力だ。


「? 九条くん?」


 だというのに、九条くんは私にもたれかかったまま微動だにしない。


「おーい」

「…………」

「ねぇって」

「…………」


 狸寝入りか!? 狐の癖に!!


「ちょぉ、ちょっとぉっ!」


 ずるずるとますます体を密着させてくる九条くんに、何やってんだバカ! と怒鳴りつけたい衝動に駆られる。
 でもその半面、触れ合う体温が不思議なくらいに心地よくって。天敵妖狐の高い体温が心地いいなんて、雪女としてはどうかしている。

 そう思うのに……。


「もう……」


 結局私は振り解けないまま、九条くんと二人こうしてしばらく寄り添っていた。


『九条家は名門一族じゃあるんだが、昔っから黒い噂が絶えねぇんだ』


 夜鳥くんに言われた言葉を、脳裏に浮かべながら――。