「あ、暗部長……? 三日月さん……?」
ずっと暗部長だと思っていた人は、かつて九条くんの侍女をしていた、ばあやさんだった……!?
……いや、ばあやさんは侍女だけど、暗部長でもあるんだっけ? うーん、ややこしい。
首を捻っていると、暗部長もとい、三日月さんが困ったように眉を下げた。
「混乱させてしまい、申し訳ありません。実は先ほどまでの若い姿はかつての私。実際はこの通りの老婆なのです。あの姿の方が暗部としての仕事がし易かったので、ずっと化けておりました」
「はあ……」
つまり舞台の時は若かりし頃と朱音ちゃん、二つの姿を同時に使い分けていたということだろうか。
幾度と妖狐の変化は目にしてきたが、彼女の能力の高さには驚いてしまう。
「ああ、なるほど。何故姿を変えられているのかと思っていましたが、そんな理由でしたか」
と、そこで宰相さんが、何故か訳知り顔で三日月さんに頷いた。
「分かりますぞ、その気持ち。やはり若い頃に比べると、体力気力に衰えを感じますからな。実は私もまだまだ現役のつもりでいますが、なかなかどうして身体がついていきません」
「まぁ、宰相様も? けれどご活躍は常々耳にしておりますよ。〝つもり〟ではなく、実際にまだまだ現役でしょうに」
「いやいや。それを言うなら、三日月殿だってまだまだ現役でしょうに」
「…………」
え? なんか急にジジババ談義が始まったんですけど?
話に着いて行けずにポカンとしていると、そんな私に気づいた三日月さんがハッとして、今度はぺこぺこと頭を上げた。
「ああっ! 申し訳ありません、皇女殿下! 私ったらつい、話が盛り上がってしまって……!」
「い、いえいえ、いいんです! えっと……一応確認ですけど、三日月さんが九条くんが言っていた〝ばあや〟さん。それは間違いないんですよね?」
姿が変わったからだろうか?
狐面をつけていた時の三日月さんは凛としたデキル女性という印象だったが、今は可愛らしいおばあちゃんといった様子だ。
ほわほわとした雰囲気は、確かに九条くんが心を許してたというのも理解できるような、温かみを感じる。