「え、この国大丈夫?」
「ええ」
思わず出た心からの言葉に、宰相さんは意外とあっさりとした調子で頷く。
「もちろん二人の婚姻には、多くの者が反対しました。〝皇帝の結婚〟は陛下個人の一存で運ぶものではないのですから当然です。かくいう私も反対した者の一人。風花殿自身は教養もあり優れた人物ではありますが、しかし彼女は雪女。しきたりを破る婚姻など、認められませんでした」
「…………」
〝しきたり〟……。
『やっぱりお子様がおられないからじゃねーか? 居て隠す理由がねぇもん。それか皇后陛下が人間じゃなく、実は妖怪だから公表出来ねぇとか……?』
『雷護、それは絶対無いでしょ! 人間と妖怪の均衡を崩さない為に、皇族は代々人間としか婚姻を結ばないしきたりなんだからさ!』
そういえば以前、雨美くん達もそんなことを言ってたっけ。
じゃあ、お母さんと陛下はどうやって――。
「陛下は皇族が妖怪の血と混じることを厭うなら、生まれてくる子の皇位継承権は放棄すると。次代は皇弟殿下に譲ると宣言されたのです」
「!!」
ハッと私が宰相さんを見れば、彼は私に向かって深々と頭を下げた。
「……そうまで言われては、私に返す言葉はありませんでした。故に貴女に皇位継承権はありません。申し訳ありません。妖怪の血が流れる者を皇位に据えることは出来ない。これだけは譲れない一線なのです」
「い、いいえ! 継承権なんてとんでもありません! そもそもずっと庶民として暮らしてきて、実は皇族でしたってだけでも頭が追いつかないのに……!」
ぶんぶんと首を横に振りながらも思うのは、お母さんのことだ。
そんな苦労をしてまで陛下と結ばれたのに、私がお腹に宿った時期にお母さんは一人ティダに移り住んだ。
家事も仕事もなんにも出来なかったお母さん。
私が嫌なことがあってわんわん泣いていたら、いつだってぎゅっと抱きしめてくれたお母さん。
いつも飄々として、ケラケラ笑っていたけれど、その表情の裏側で何を思っていたのだろう?
『無いよ。後悔なんて一度だってしたこと無い。だって一番の宝物が、こうして元気に育ってくれたんだから』
あの時の言葉にまた重みが増して、私の目尻にじんわりと涙が滲む。
するとそんな私を見て、宰相さんがふっと息をついた。
「……風花殿は皇女殿下に多くのことを隠していましたが、それは貴女を愛するが故のこと。そして陛下のこともどうか悪く思わないで頂きたい。あの方はこの16年間、貴女を想わない日はなかった」
「宰相さん……」
