「……何か?」
「い、いえ! その……。〝乗り越えて今がある〟って、なんだかまるでお母さんと陛下が今は夫婦であるかのように聞こえるんですが……?」
「…………」
勘違いだったらとんでもなく怒鳴られそうだと思いながらも恐る恐る切り出すと、宰相さんは何故か豆鉄砲を食らったような顔で目を丸くした。
「はあぁぁぁ……」
そして脱力したように顔を手で覆って、深い深い溜息をつく。
「……あの?」
「失礼。そうでした、皇女殿下はこのことも知らないのでしたな。……全く、風花殿の徹底した用心深さには舌を巻く」
「???」
誰……? 皇女……??
ふと私達の後ろにひっそりと佇む暗部長さんの方を見るが、首をゆるりと横に振られ、宰相さんがゴホンとひとつ咳払いした。
「いいですかな、まふゆ様。貴女は……」
そう言って宰相さんが私に向かって跪く。
「貴女は日ノ本帝国138代皇帝、國光陛下の皇女。まふゆ様でございます」
「は……」
宰相さんの言葉に、息をするのも忘れて固まる。
だって、皇女……?
私が、日ノ本帝国の皇帝陛下の……?
『ほら、まふゆ。こっちのフロランタンは美味いぞ。遠慮せずどんどん食べなさい』
ええっ!? だから陛下は私を知っていたし、何かと構おうとしてきたってことなの!?
友達の子供だから可愛いとかじゃなくって、私が陛下の娘だから……!?
『國光にまふゆの気持ちを尊重させるべきだって言われて……』
……いや、でも決して意外じゃない。
お母さんの言葉の端々には、常に陛下の姿があった。
『ではな、まふゆ。色々話せて楽しかったぞ』
何より私自身、なんとなく感じていたのだ。
あの人を一目見た時から、どこか陛下のことを他人のようには思えなかったから。
でも、そうなると……、
「じゃあお母さんは、日ノ本帝国の皇后様ってこと……?」
「む」
呟くように言った私の言葉に宰相さんは少し嫌そうに顔を歪め、やがてこくりと頷いた。
「ええ、そうです。それについては少々不本意ではありますが、風花殿は陛下の伴侶。ひいては日ノ本帝国の皇后陛下であります」
「…………」
お母さんが皇后……。
『えーそお? そんな汚い? 別にフツーじゃない?』
『あーまふゆ。片付けついでに、その魚もいい感じに捌いといてよー』
ズボラでちゃらんぽらんで。
礼儀なんか全く重んじてもいない、あのお母さんが……!!?
