「ご無事なら結構。では妖力を鎮めてくださいませんかな。私が風邪をひく」
「さ、さささ宰相さん!? どうしてここに!?」
暗部長さんの後ろからゆらりと現れた人物に私は絶句する。
思わず指を差して叫べば、宰相さんは何か物言いたげに顔を顰めた後、ひとつくしゃみをした。
「くちんっ」
「…………え?」
何? その恥じらう乙女みたいな可愛いくしゃみは。
あまりのことに凍り付いていると、宰相さんがギロリとこちらを睨みつけてきた。
「貴女の妖力のせいです。どうかお鎮めください。一刻も早く」
「よ、ようりょく……?」
そう言われてもなんの自覚もない。
キョトンとしていると、どこから出したのか、暗部長さんがサッと私に手鏡を見せてきた。
「ご覧の通り雪守殿は今、〝雪女の本性〟を露わにした状態となっております。恐らくこの一連の騒ぎをキッカケとして貴女の心に強大な感情の渦が巻き起こり、覚醒に至ったのではないか。そう私は推測致します」
「か、覚醒……?」
イマイチ状況を呑み込めないが、暗部長さんが持つ手鏡に映った自分の姿を見てやっと納得する。
紫色だった髪は今は透き通るような白に近い薄紫色になっており、その体からは目に見えるほどに凍てついた冷気を放っていた。
「これが部屋の中が氷点下になった原因……?」
興奮して気づかなかったが、いつの間にか吐く息が白い。これでは宰相さんがくしゃみをするのも無理もない。
でも……。
「え、と。いつもの姿に戻るにはどうすれば……?」
「心を落ち着かせるのです。さぁ息を吸って、吐いて」
「は、はい」
暗部長さんの言葉に従い、何度か深呼吸をする。
するとあら不思議。いつの間にやら体から冷気は発しなくなり、手鏡を見ればいつもの自分がこちらを見ていた。
