「――――え!?」
まるで世界がひっくり返ったように目の前がぐるりと回り、気がついたらどこかで見覚えのある石床の部屋に尻もちをついて座り込んでいた。
四角い部屋を照らす、頼りないランプの光。
ヒンヤリと冷たい石床の感触は、まざまざとあの日の記憶を私の脳裏に甦らせる。
「ここって……」
「ほほほ」
「!」
ゾワゾワと寒さとは違う悪寒に思わず眉をひそめると、コロコロと鈴を転がしたような美しい笑い声が正面から聞こえた。
それにハッと顔を上げ、息を呑む。
「ご明察の通り、ここは九条家の地下室じゃ。懐かしいであろ? あの時はよくもまぁ、やってくれたものじゃったなぁ……」
「っ!!」
現れたのは、やはり黒いレースで目元を隠した、着物姿の10歳くらいの女の子。
だが彼女は見た目通りの子供じゃない。その正体は九条家の当主、九条葛の葉だ。
もう出来れば二度と会いたくないと思っていた人物に再会し、私は警戒心を露わにして叫ぶ。
「こんなところに私を連れて来て、一体どういうつもり!? 私はあなたと喋ってる時間なんてないんだから! さっき体育祭でお母さんが……!!」
「風花ならたいした怪我でもないであろ。全く忌々しいことに、妾は術を外してしまったからな」
「は? 〝術〟……? それって――」
頭に浮かぶのは、私とお母さんの間に突然現れた狐面をつけた巫女服姿の女性。
てっきり九条家の暗部だと思っていたけれど、まさか……!
「お母さんを襲った狐面は、あなただったの!? それに九条くんが消した豪火を放ったのも、全部、全部……っ!!」
声を震わせて睨みつけると、九条葛の葉はニタリと口の端をつり上げた。
「それもご明察。そうじゃ、あの狐面の暗部は妾が化けたもの。見たか? 風花の苦痛に歪んだ顔。いつも飄々としている女が膝をつく様は全く傑作じゃったなぁ」
「――――ッ」
コロコロと鈴の音のように美しい声は、今はただ不快でしかない。
そのまま怒りに任せて立ち上がろうとするが、しかしその瞬間、〝ジャラッ〟という音と共に、私の両手首に鋭い痛みが走った。
「えっ!?」
慌てて手首に視線を向けて、私は愕然とする。
何故なら以前この地下室で九条くんが繋がれていたのと同じ手枷が私の両手首を拘束し、壁から伸びる鎖でがっちりと固定されていたからだ。