まだ先ほどの余韻(よいん)が抜けず、騒がしい周囲。
 その騒めきを聞きながら、私は九条くんとお母さんと共に、元いた席へと戻る。


「まふゆちゃーーんっ!!」

「わっ、朱音ちゃん!?」


 すると目が合うなり、朱音ちゃんが抱きついてきたので、私は慌ててそのふわふわな体を受け止めた。
 ぱっちりとしたチョコレート色の瞳でこちらを見上げる朱音ちゃんは、にこにこと満面の笑みだ。


「よかったねぇ! これでみんなの目を気にしなくてもいいんだよ! 神琴様、素晴らしかったです!」

「はは、ありがとう、朱音」


 ぐっと親指を立てる朱音ちゃんに、九条くんが苦笑する。
 するとそんな二人の元へ、カイリちゃんが近づいて来た。


「んー、けどさぁ。なーんか、さっきのクジおかしくなかったか?」

「え?」


 (いぶか)しげに考え込むその様子に、私は目を瞬かせる。


「おかしいって……、何が?」

「銀髪の引いたクジの指示だよ。〝付き合っている人〟なんてアンタらはいいかも知れないけど、例えばあたしとかが引いたら詰みじゃん。なんで万人に当て嵌まらないような指示を入れたんだろ?」

「あ。た、確かに……」


 言われてみれば不自然なのかも?
 そもそもこの競技が人気なのは、〝恋が始まる〟からなのに……。


「うーん……」


 そのままカイリちゃんと二人、首を捻る。
 と、そこで九条くんが「ああ」と声を上げた。


「不自然なのは当然だよ。なにせあのクジは、俺が(・・)体育委員に言って、特別に入れてもらったものだからね」

「へっ……、ええっ!? 九条くんがっ!?」

「特別にって……、一体どうやってだよ?」


 カイリちゃんが尋ねると、九条くんはあっさりと種明かしした。