「――最初」

「!」

「このクジを引いた時、まふゆを呼ぶべきか悩みました。彼女は俺達の関係を公にし、学内を混乱させることを望まなかったから」


 不意に話し出した九条くんに、私は考えるのを止めてハッと彼を見つめる。
 その顔は真っ直ぐに観客席へと向かっており、真剣な表情で言葉を続けた。


「けれど俺も彼女も生徒会という立場上、校内ではよく知られています。このまま隠していても、いずれ噂になって真実を知られるのは時間の問題。ならば自分の口から言った方がいいと判断しました。……俺は付き合うと決めた時、もうこれ以上彼女に俺のことで哀しい顔はさせないと、そう覚悟していましたから」

「九条くん……」


 凛としたその表情に、じわりと涙腺が緩むのを感じる。
 そっか。九条くんはそんなことまで考えて、私を借り出したんだ。

 私はただ、みんなに知られて好奇の目や非難の目を向けられるのが恥ずかしい、怖い。
 そんな自分勝手なことばかり考えていたのに……!!


「……っ、九条くんっ!!」

「まふゆ?」


 急に九条くんのジャージを引っ張った私を、驚いたように金色の瞳が見つめる。
 それに感情が高ぶるまま、私は叫んだ。


「わ、私もっ! 私も九条くんと付き合うって決めたのは、生半可な覚悟じゃありません! ずっと一緒にいるって、絶対に九条くんを幸せにするって、そう決めたからなんです! だから、こんな風に騒がせてごめんなさい! でも図々しいですけどどうか、見守っていてくださいっ!!」

「まふゆ……」


 言った勢いのままガバっと頭を下げた私に、また競技場がざわざわと騒めいた。
 しかし次にはパチパチと拍手が巻き起こり、それは次第に大きくなっていく――。


「あ……」

「会長さーん、副会長さーん、おめでとぉー! 演劇部(うち)の舞台からカップル誕生なんて、鼻が高いわぁぁぁん!!」

「みんなの神琴さまを奪ったんだから、その覚悟を絶対に有言実行しなさいよ!! 見守るどころか、監視してやるんだから!!」


 演劇部の部長さんや、クラスの女子達。
 みんなそれぞれ表情は違うものの、手を叩いてくれている。
 急にこんなことを言い出して、思うところだってたくさんあるだろうに、その優しさに思わず涙が零れた。


「まふゆ」

「うん……」


 九条くんが私の手をそっと握る。
 それに私も強く握り返して笑った。


「ありがとう、九条くん」


 ◇


 ――こうして、この日。

 ついに私達は恋人として、みんなの前で堂々と立てるようになったのである。