「うぉぉぉぉぉぉ!! 負けませんよぉぉ!! 九条くんっ!!!」
私の脳内が騒がしい間にも、更なる土煙を上げて猛追してくる木綿先生。
しかし九条くんも負けてない。
「きゃああ!! 頑張れ神琴さまぁーー!!」
「行け―ーっ!! 木綿先生ーーっ!!」
抜きつ抜かれつつのデッドヒートに、観客席が今日一番の盛り上がりを見せる。
そして――。
「ゴォォーーーールッ!!! 競り勝ったのは、九条神琴氏だぁぁーーっ!!!」
瞬間、一斉に湧く競技場。
「はぁ、はぁ……」
「……大丈夫?」
ゴールテープを切り、私を下ろして額の汗を拭う九条くんに、そっと声を掛ける。
「ああ、大丈夫。さすがに疲れたけど、それだけだ」
「そっか」
微笑む九条くんにホッとして、私は胸を撫で下ろす。
するとその時、後ろから鋭い怒号が響いた。
「くぉらぁ!! 木綿先生!! 君は私の話も聞かんで、また何をやっとるんだ!!」
「ひぇっ!? が、ががが学校長!? 話に夢中だったのでは!?」
九条くんより少し遅れてゴールした木綿先生は、お母さんを背中から降ろすと、あわあわと顔面を蒼白させる。
それに額に青筋を浮かべた学校長がツカツカと近づいて、更に怒鳴りつけた。
「なんの返事も聞こえなかったら、さすがに君が居なくなってることにも気づくわっ!! 全く、反省するどころか私を出し抜き、あまつさえ天女様をおんぶしているとは! なんとも羨まけしか……ゲフンゲフン! と、とにかく君にはもう一度お説教が必要なようだな! ほら、学校長室に来なさい!!」
「ええーー!? わぁぁぁん!! 嫌ですぅぅ!! もう同じ話ばっかり聞きたくないですぅぅぅ!!!」
泣き叫びながらまたも学校長にドナドナされていく木綿先生。
それを半ば呆れて見ていると、ひらりと先生の懐から白い何かが飛んできた。
「ん? これは……」
拾い上げるとそれは小さな紙で、何かが黒いペンで書かれている。
「もしかしてそれ、木綿先生が引いたクジかい?」
「うん、多分ね」
九条くんの言葉に頷き、文字を読む。
するとそこに書かれていたのは……。
〝強い人〟
簡潔にそれだけ記されていた。それに私と九条くんは顔を見合わせる。
「ねぇなぁに? わたしは何て書かれて借り出されたの? もしかして〝美しい人〟とか?」
「あはは、まぁ、そんな感じ……」
「負けちゃったけど、懐かしいわぁ。わたしも昔、選手として借り物競争に出たことがあったのよねぇ」
「へぇ」
適当に相槌をうって話を合わせると、お母さんは上機嫌に鼻唄を歌い出す。
嘘をついてしまったことに少しだけ罪悪感もあるが、まぁ〝言わぬが仏〟って言葉もあるし……、いいよね?
