「うぉーーっ!! 行けーーっ!!」

「頑張れーーっ!! 九条様ーーっ!!」

「!?」


 と、そこで夜鳥くんと雨美くんの大きな叫び声が聞こえて競技場に視線を戻すと、なんと九条くんが走っている!! もう借り物競争が始まってしまっているではないか!!

 慌てて席から立ち上がって見ると、九条くんはグングンと加速して、後方を追いかける選手達との距離を着実に広げていく。


「さすが九条様。やっぱ妖狐は足はえーな」

「問題はこの先のクジで〝誰を借り出すか〟だね」


 ――そう。100メートル走った先に設置されている、借り出し用のクジ。
 引いた内容によって難易度も変わり、順位はまだまだ変動する余地がある。

 そこに真っ先に辿り着いた九条くんは、すぐさまクジ箱の中に手を突っ込んだ。
 それに観客席の女子達から黄色い悲鳴が上がる。


「きゃあああああ!! 神琴さま! わたしを借り出してーーっ!!」

「いいえ、あたしよ! 神琴さまぁーー!!」

「違うわッ!! 神琴さまに選ばれるのは、このあたしなんだからぁ!!」


 ぎゃいぎゃいと騒がしく言い争う声を遠くに聞きながら、私はドキドキとクジを開く九条くんを見つめる。
 すると九条くんがクジから顔を上げ、金色の瞳と視線がかち合った。


「――まふゆ!!」


 瞬間、ザワッと揺れる競技場。
 その場に居る全員の視線が、私へと向かう。


「来てくれ!!」

「――――っ」


 差し伸べられた手をすぐにでも取りたくて、朱音ちゃん達に背中を押されたのを感じながら、私は九条くんの元へと一直線に駆け出した。