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「みなさん、お昼休憩は終わりです。午後の第一種目、借り物競争を始めますので、参加者の方はトラックのスタートラインまで集合してください」
各自お昼ご飯を食べる為に散っていた生徒達が観客席へと戻り、午後の部開始のアナウンスが競技場に流れる。
そしてそれに反応したのは、ちょうど朱音ちゃんと共に寮から戻って来ていた九条くんだった。
「あ、俺が出る競技だ」
「えっ!? 九条くんって借り物競争だったっけ!?」
「うん、行ってくる」
「あ、ちょっ……!」
すくっと席から立ち上がった九条くんを私は慌てて呼び止めるが、聞こえなかったのかそのまま行ってしまう。
どうしよう、九条くんがあの借り物競争に出るだなんて、マズいんじゃ――。
「きゃああああああ!!!」
そんな私の危惧は、すぐさま的中する。
九条くんがトラックのスタートラインに現れるなり、観客席が一気にさざ波のように騒めき始めたのだ。
「えっ!? まさか神琴さまが借り物競争に出られるの!?」
「うそぉ! もしあたしが借り出されたらどうしよう!?」
「やだっ、あたしかも!?」
昼食後ということもあり、大人しかった観客席が黄色い声で溢れる。
それを聞いた夜鳥くんと雨美くんが、やれやれと肩をすくめた。
「おわぁー、がぜん女子達が色めきだってるぞ。おっかねぇー」
「九条様って人気だけど近寄りがたいって、大抵の女子は遠巻きに眺めてるだけだからね。でも〝借り物〟だったとしたら、堂々と九条様と手を繋げる訳だ」
「ああ、日ノ本高の借り物競争って〝物〟は借り出されないからねぇ」
……そうなのだ。
我が校の借り物競争のルールでは、〝学校で一番面白い人〟や〝クラスで一番優しい女子〟等、借り出されるのは〝人〟に限定されている。
そして借り出された人と一緒にゴールするのが、毎年の伝統なのである。
これがキッカケで付き合ったカップルもいるって話だし、例年盛り上がる人気種目ではあるが、それにまさか九条くんが参加してしまうなんて……。
なんだか嫌な予感しかしない。
