「……間違いない。昔食べたばあやの味だ」
「そっか……」
実際にばあやさんのいなり寿司を食べたことのある九条くんがそう言うのなら、やっぱりこれは彼女が作ったもので間違いないのだろう。
だとすれば、彼女は今も生きている。
そして九条葛の葉は、〝彼女の行方を知っている〟ということだろうか……?
「九条くん……」
「頭が混乱してきた。俺はずっとばあやは死んでしまったものかと……。確かにあの時、葛の葉は彼女を〝暇に出しただけ〟と言っていた。そんなこと当時は信じられなかったが、まさか本当に――……?」
九条くんは難しい顔で考え込んだ後、朱音ちゃんの方を振り向き、彼女を呼んだ。
「――朱音」
「! は、はいっ!!」
「……頼みがある」
「なんなりと! 神琴様のお願いなら、なんでもお承りします!」
「じゃあまふゆ、俺達はちょっと寮に行ってくるから」
「え、あ?」
ブンブンと力いっぱい頷く朱音ちゃんを伴って、九条くんが観客席を立つ。
え? 寮って……、なんで? まさか忘れ物……は無いか。
「はぁー、食った食った」
「結局全部食べちゃったね」
「まぁ、めちゃくちゃ美味かったからな」
「最高のいなり寿司を食べた後に食べる、國光のお菓子もまた格別だわー」
「…………」
どうやら私が九条くん達と話している間に、他のみんなでいなり寿司をすっかり完食してしまったらしい。
綺麗に空になったお重を見て、私はまた考える。
『……いなり寿司は俺にとって、思い出の料理なんだよ』
仮に本当に純粋な好意であったとして、どうして九条葛の葉は〝ばあやのいなり寿司〟を差し入れに選んだのだろう?
九条家の地下室で対峙した時の態度を見るに、九条くんの好みなんて何も知らなそうな、殺伐とした関係に見えたけれど……。
『さあ? 葛の葉はああやって相手の不安を煽るのが好きだからね。言うならば、俺に対する当て付け……かな?』
〝当て付け〟……?
「いや……まさか、ね」
以前九条くんが呟いた言葉を不意に思い出し、しかしそれを振り払うようにして、私は首を横に振った。
