「いやぁね、まふゆったら! 葛の葉のプライドは日ノ出山よりも高いのよ? 食べ物に何か混ぜるなんて、そんな姑息な真似は絶対しないわよ。これは単に九条くんへの差し入れでしょ? こんなに美味しそうなのに、食べないなんて勿体ないじゃない」
「う、ううん……?」
プライドが日ノ本帝国一高い日ノ出山よりも高いから、異物混入なんてしない。
フォローしてるのか微妙な説明だが、なんだか納得出来るような、出来ないような……?
思わず首を捻って唸っていると、九条くんからお重を受け取ったお母さんがそれを私に差し出してくる。
「ほら、まふゆも食べてみなさいよ。すっっごく、美味しいわよ」
「ううう……」
ずいっと目の前に突き付けられるお重。
確かにお揚げがツヤツヤと輝いていて、とても美味しそう。
「ほら、ほらほら」
「……分かったよ」
結局黄金色の誘惑に負け、私は意を決していなり寿司を頬張った。
「……!」
するとなんということだろう!
お揚げの甘辛い味付けとまろやかな酢飯が、口の中で絶妙なハーモニーを奏でている!
これは学食のなんて比べ物にならない! とびっきりのいなり寿司だ……!!
「お、美味しいぃ……!!」
「え、マジ!?」
「ボクも食べたてみたい!」
「あ、あたしも!」
さっきまでの張りつめた空気はどこへやら。
私の声を皮切りに、次々とみんなの手がいなり寿司へと伸びる。
「ホントだ! ちょーうめぇ!」
「さすが九条家のいなり寿司。格が違うね」
「いなり寿司に格とか意味分かんないけど、確かにそう言うのも理解できる美味さかも」
「〝ばあや〟さんのいなり寿司。わたしずっと食べてみたかったけど、こんな形で叶うとは思わなかったな……」
「朱音ちゃん……」
みんなが美味しそうに頬張る横で、しんみりといなり寿司を口に運ぶ朱音ちゃん。
それに何も言えずにいると、その隣で九条くんもお重に手を伸ばす。
「…………」
「どう?」
思わず問いかけると、いなり寿司を咀嚼した九条くんは、ふっと息をついた。