「ふふ、結局は順当な結果だったねぇ」
「うん。夜鳥くんかなり張り切ってたから、よかった」
木綿先生については学校長は話し出すと止まらない人なので少々不憫であるが、仕方ない。私達はちゃんと止めたのに、自業自得だ。
心の中で木綿先生に合掌していると、ちょうど夜鳥くんが観客席に戻って来る。
「おーいっ!」
「あ、一位のご帰還だ」
「おめでとー! はい、スポーツドリンク。お母さんからの差し入れだって」
「おおっ! ありがとうございます、風花さん!」
「いいのよー。いっぱいあるから、どんどん飲んじゃって」
自分こそ泡盛をグビグビ飲みながらお母さんが上機嫌に笑う。
差し入れにちゃっかり自分用のお酒まで混ぜて持ってくるだなんて、お母さんらしいと言えばそうだけど、なんとまぁ呆れてしまう。
「てかお前ら、ちゃんとこのオレの勇姿を見てたのかよ? まぁちょっとばかし、木綿に水刺されちまったけど……」
「あはは。レース的にはそれはそれで盛り上がったんだし、いいじゃん」
その興奮と引き換えに、木綿先生は学校長による無限説教地獄編に突入してしまったが……。
しかしその元凶であるお母さんはそんなことどこ吹く風で、体育委員達が次の種目の準備を進めているトラックをキョロキョロと見回している。
「次はなんの競技かしら? まふゆはいつ出るの?」
「えーと……。あ、私次のだ。パン食い競走」
「ホント!? それわたしもだよ!」
「え、アンタらも出るの? あたしもだよ」
「おー、女の子組全員かぁ。頑張ってらっしゃい」
ポンと私の背中を押すお母さんの表情はいつもの明るいもので、先ほど貴賓室で見せた様子は夢だったのかと思うくらいだ。
『九条くんのこと。楽観的なことは何も言えないけど、でも今日でなんらかの決着は着けるから。だからもう少しだけ待ってて』
うーん、あの言葉の真意。聞きたいのは山々だけと、今は聞けないよなぁ……。酔ってるし。みんなの前だし。
「……うん、ありがと。いってきます」
後ろ髪を引かれながらもお母さんにそう答えて、私は朱音ちゃんカイリちゃんと共にトラックへと向かう。
――そしてそんなこんなで瞬く間に体育祭は進行し、時計の針はあっという間に午後12時。お昼ご飯タイムに突入したのだった。