「皆さん、おはようございます。本日は待ちに待った体育祭です。この日の為に皆さんは――」
学校長の長ったらしい開会の挨拶を皮切りに、ついに始まった日ノ本高校の体育祭。
互いの力を競い合う生徒達の騒がしい声に混じって聞こえるのは、とある人物に対する憧憬の声だった――。
「わあっ! 本当にうちの学校に、あの皇帝陛下がいる……!!」
「すごいっ!! 頑張っていいとこをアピールしないと!!」
「あ、でも、隣に座る鬼の宰相様の顔怖ぇ……。もしかして睨まれてない?」
我が校の陸上競技場。
その観客席の最前列にある、貴賓用の席。そこの真ん中に座る神々しいばかりの威光を放つ黒髪の男性に、みんなが一様に目を輝かせている。
……それもその筈だろう。
毎年皇弟殿下が出席されるのが暗黙の了解となりつつあった体育祭に、今年はまさかの皇帝陛下自らが母校とはいえ、一高校の体育祭に現れたのだ。
しかも宰相さんまで伴って。これで騒がないはずがない。
「あーあ。みんな陛下を見るのに夢中で、全然競技の方を見てないね」
「気持ちは分かるけど、なんだか切ないよね。私達も色々準備頑張ったのに……」
周囲を見回して言う朱音ちゃんに対し、私は溜息をついて頷いた。
すると後ろでドンっと、何かを置くような音がして振り返る。
「ぷはぁ! ま、その分、わたし達がみんなの応援をすればいいわよ。次の競技には夜鳥くんが出るんでしょ?」
「……そうだけど。ねぇお母さん、学校を花見会場か何かと勘違いしてない?」
私は観客席にどっしりと座り、持参したグラスにご機嫌で泡盛を注ぐお母さんをジトッと見つめる。
貴賓室から出た後、競技場に移動して、生徒会のみんなや朱音ちゃん達と観客席で合流した私達。
どうやらさっきの音は、空いた泡盛のビンを地面に置く音だったらしい。
「別にいいじゃなーい! せっかくみんなの晴れ舞台なんだから! あー、青空の下で飲む酒はやっぱり美味いわぁ! 昼間っから飲酒なんて、最っ高! 大人にだけ許された贅沢ね!」
「…………」
それは〝ダメな大人にだけ許された贅沢〟の間違いではないのだろうか?
そう思いながらも今は応援に集中しようと、私は競技場のトラックに視線を向ける。
するとすぐに目立つ黄色いツンツン頭は見つかった。