「どんなって、まふゆも会ったって言ってたじゃない。葛の葉よ。九条葛の葉」
「じゃなくって、本当のお母さん。だって妖狐一族の当主は、義理の母なんでしょ? 九条くんが前にそう言ってたもん」
「え……」
――コンコン
私の言葉にお母さんが目を見開いた瞬間、扉をノックする音が室内に響いた。
「皇帝陛下、そろそろお時間です。競技場に向かうご準備をお願い致します」
「……時間か」
扉越しに聞こえた学校長の声に、陛下が立ち上がる。
「話の途中ですまないが、ここまでだな」
「あ……」
「ではな、まふゆ。色々話せて楽しかったぞ。その机にある菓子は全部持っていくといい。友達と食べなさい」
「え、わわっ!?」
陛下は以前の去り際と同じようにグシャグシャと私の頭をかき回すようにして、豪快に撫でてくる。
そしてそのまま着ている羽織を翻し、宰相さんを後ろに従えて、あっという間に部屋を出て行ってしまった。
「…………」
ああ、また決定的なことは聞きそびれてしまった……。
陛下の後ろ姿に妙に寂しさを覚えて、扉が完全に閉まった後も、ぼんやりと見つめる。
「まふゆ」
「え?」
すると不意にお母さんに私の名を呼ばれ、それに振り向けば、唐突にぎゅっと強く体を抱きしめられた。
「……お母さん?」
「…………」
どうしたんだろう?
少しだけ震えている両腕が不思議で問いかけると、呟くようにお母さんが言う。
「……九条くんのこと。楽観的なことは何も言えないけど、でも今日でなんらかの決着は着けるから。だからもう少しだけ待ってて」
「え……?」
それってどういう意味?
口元までそんな言葉が出かかる。
しかし実際に問いかける前に、お母さんはいつもの調子で元気よくソファーから立ち上がって伸びをした。
「ん~! さて、じゃあわたし達も競技場に移動しましょっか! あ、お菓子忘れずにね。カイリや朱音ちゃん達の活躍、楽しみだわ~」
「う、うん……」
先ほどの思い詰めたような様子を一変させ、ルンルンと貴賓室を出て行こうとするお母さん。
なんとなく質問出来ない雰囲気を感じながら、私もその後を慌てて追いかける。
「…………?」
何? お母さんは今日、一体何をしようとしているの?
今の言葉の真意も気になるが、もう一つ引っかかるのは、九条くんのお母さんの話題を出した時の反応。
『じゃなくって、本当のお母さん。だって妖狐一族の当主は、義理の母なんでしょ? 九条くんが前にそう言ってたもん』
『え……』
九条葛の葉のことを〝義理の母〟と私が言った時、お母さんは心底驚いたような顔をしていた。
それは、一体なぜ……?
