「ほら、まふゆ。こっちのフロランタンは美味いぞ。遠慮せずどんどん食べなさい」
「は、はぁ……」
ここは日ノ本高校の皇族専用貴賓室。
その場に全く似つかわしくないジャージ姿の私は、ちょこんと広々した革張りのソファーの端に腰掛けて、目の前の神々しい威光を放つ黒髪の壮年の男性――皇帝陛下に勧められるまま、お菓子をひとつ摘まんで口にする。
「っ……!?」
お、美味しいっ!! サクサクの生地に香ばしいアーモンドが乗っていて、和菓子とは違うキャラメルの甘さが舌をトロトロにとろけさせる!!
「おお、気に入ったか? それは先日献上されたものなのだが、私もとても気に入っていてな」
「へぇーどれどれ? その〝フロなんとか〟って、そんな美味しいんだ」
そう言って私の横からお菓子の包みに手を伸ばすのは、夏休みから約2か月振りの再会となるお母さんである。
サクサクと軽やかな音を立ててお菓子を頬張ると、膝を叩いて悶絶した。
「あ、うまっ! これいい! 國光! これ今度わたしんちに送ってよ!」
「……風花殿。いくら我々しかいない場とはいえ、あくまでも陛下はご公務中なのですから、私的な呼び名は控えていただきますよう」
「なぁにぃ? 相変わらずかったいわねぇー、〝鬼の宰相様〟は」
「……私には近衛正宗という名がありますが」
「えー? 私的な呼び名は控えろって言ったのは、そっちなのにぃー!」
ケラケラとお母さんがソファーに座る陛下の背後に控えるように立っている、鬼一族の当主であり、日ノ本帝国の宰相でもある、近衛正宗さん(今初めて名前を知った)を指差して笑う。
対して宰相さんは表情こそ変えないものの、辺りには恐ろしいまでの妖力が漂っている。
それに内心では彼が激怒していることを察して、私は恐怖で喉が引き攣った。
「こらこら、正宗。妖気を漏らすな。ただでさえお前は顔が怖いのに、まふゆが怯えるではないか」
「……それは失礼」
陛下の一言ですぐに妖力は収まり、私はひとまずホッとする。
……が、しかしこの状況は一体何!?
なんで私、皇帝陛下とお母さんと宰相さんと一緒に貴賓室でお菓子食べてんの!?
えーっと、事の発端はそう、
体育祭の来賓として我が校に現れた陛下が〝私を呼んでいる〟と学校長に呼び出されたからであった――……。