「太陽。太陽かぁ……、確かにね」
「だなぁ。特に九条様合流前の生徒会は、まさにそんな感じだったしな」
「はい。雪守さんが先頭に立ってあれこれ取り仕切ってくれたお蔭で、生徒会長不在という由々しき事態も無事に乗り切れましたし」
「ううう。その節はみなさんご迷惑をお掛けしたことを、神琴様に代わってお詫びします……」
「え、何々? あの銀髪って、途中加入だった訳??」
思わぬところで話題が過去に飛び、わいわいと話に花を咲かせる。
けれどそんな頭の片隅で思うのは、もちろん湖へ行った二人のことだ。
今頃二人はデートを満喫しているのだろうか?
もしかしてキスとかしちゃってたりして?
「ふふっ」
「? なんだよ、急に笑って」
「いいえ、なんでもありません」
――そう、まふゆちゃんはわたしの太陽。
太陽がたった一人のものになって、ピリッとした痛みが無い訳ではない。
でもそのお相手である神琴様もまた、わたしの太陽なのだ。
ずっとずっと直接言葉を交わすことは出来なかったけれど、神琴様は確かに一族のはみ出し者だったわたしの運命を変えてくれた。
神琴様が居たから、今わたしはここに居られるのだ。
憧れの太陽と太陽の想いが成就した。それが嬉しくないはずがない。
「ほら」
「?」
ぼんやりと想い馳せていると、不意に夜鳥さんが目の前に何かを差し出してくる。
反射的にそれを受け取れば、手の中にあるのは例の黒い卵だった。
周りを見れば、温泉卵というには固ゆで過ぎるそれをみんなしてむしゃむしゃと食べている。
「ゆで卵ってうめぇけど、単体だと味気ないよなぁ」
卵を齧りながらそうボヤく夜鳥さんに、カイリちゃんが呆れたように口を開く。
「だからって練乳はやめときなよ。蛟も。ハバネロとか貴族の癖にバカ舌じゃないんだからさ」
「バカじ……! 魚住さん、ボク達のことそんな風に思ってたの!?」
「カイリちゃんだけじゃなくて、わたしもずっと思っていましたよ。まふゆちゃんも、多分」
「はあ!? 嘘だろ!? オレ達のどこがバカ舌なんだよ、不知火ぃぃ!?」
「ふふふっ!」
追い討ちをかけると、焦ったように叫ぶ夜鳥さんが面白くて、わたしは笑う。
ガサツで変態っぽいこの人だけど、存外やり取りは楽しくて、最近はわざと煽ってしまうきらいがある。
受け取った黒い卵の殻を剥けば、ツルンと綺麗な白身が現れ、そのままわたしは口にパクンと放り込んだ。
「ん、おいし」
お互いにお互いを想い合う。
いつかわたしにもそんな人が出来るかな? 出来るといいな。
そんな思いを抱きながら、わたしは噴火口を目指して足を踏み出した。
番外 雪女に憧れた者達の密やかな呟き・了