「あ、実行委員の。……何かな?」


 振り返れば案の定声を掛けてきたのは、文化祭実行委員改め、九条くん親衛隊のみなさんである。
 リーダーらしき例の猫撫で声をした妖怪女子が、人間女子を何人も後ろに引き連れていた。予想通り過ぎる展開にゲンナリするが、にこやかな笑顔は意地でも崩さない。


「ちょっと雪守さんに教えてほしいことがあるんだぁ。時間あるよねぇ~?」

「…………」


 即座に「ねぇよ」と言ってやりたいが、穏便に済ますためにも、ここは素直に従った方がいいだろうか。
 学食で揉め事が起きてしまったら、他の生徒もいる手前マズい。


「……分かった」


 私が大人しく頷けば、彼女達はこっちに来いとばかりに合図するので、黙って従う。
 そうして後について行き、到着した先は……。


「ここなら誰にも邪魔されないわねぇ」

「…………」


 やはり校舎裏だった。

 こういった呼び出しの時の場所は、学校の校舎裏か屋上と相場は決まっている。
 確かに人気(ひとけ)はないが、「ベタだなっ!」とツッコんだ方がいいのだろうか? 寧ろツッコまれる為に、校舎裏を選んだ可能性は……?


「あ、」


 しかし私がツッコむより先に、ぐるりと周囲を親衛隊に取り囲まれてしまい、一気に場がヤバ気な雰囲気に包まれる。


「え、えっと」


 それをどうにか崩したくて、私は笑顔のまま親衛隊のみなさんに尋ねた。


「それで教えてほしいことって……」


 ……何? と続く私の言葉は、しかし途中のまま言い終えることが出来なかった。

 何故なら――。


「なんでアンタみたいなど庶民の人間ごときが、神琴(みこと)さまに構われてんのよっ!! 私だってまともに話せたこと無いのにぃぃ!!!」

「そうよそうよ!! 神琴さまはどんな女を前にしても、クールな態度を崩さない孤高の方なのよ!! なのにアンタ、さっき笑いかけられてたでしょっ!?」

「しかもイチャイチャと、二人でポスターの図案を決めていたわっ!! もう羨まし過ぎて、絶対に許せないっっ!!!」


 私の言葉などまるっとスルーされ、親衛隊の罵詈雑言が校舎裏に響き渡る。100パーセント予想通りの展開に、乾いた笑いが出た。あな恐ろしや。校舎裏に着いた途端にこの豹変とは。猫撫で声はどこ行った。
 それに私はイチャイチャなど断じてしていない。全くの言いがかりで誤解である。

 どうしよう? 誤解さえ解ければ、この場を穏便に収めることが出来るのだろうか……?


「なんでアンタが!!」

「アンタなんかが……!!」

「あーもーっ!」


 キーキーとしつこく罵倒を繰り返され、さすがに気分が悪い。とにかく一旦(なだ)めようと、私は口を開いた……が、


「――アンタナンカガイナケレバ」

「っ!?」