「それは今までのお話だよ! 神琴様はまふゆちゃんに想いを告げて、まふゆちゃんの気持ちを受け止めたんだよね? だったら……!」
「そうか、なら銀髪は今生きることを諦めてなんかないんだ! まふゆの存在が、諦めていた銀髪の心を変えたんだ!」
「え……」
二人の言葉に驚き目を丸くすると、朱音ちゃんはテーブルから立ち上がり、身を乗り出すようにして私に叫んだ。
「まふゆちゃん! 神琴様が病気という事実は変えられない。何も出来ない悔しさはわたしだって同じだよ。でも、当の神琴様はきっとまだ諦めてなんかない! だからお願い。不安な気持ちは痛いほど分かるけど、どうか神琴様を信じてあげて……!!」
「あ……」
絶対に離れない。この手を離さないって、何度も何度も思ってた癖に。
なんで弱気になってるの? 私……。
そうだ。私ってば自分が悔しい悲しいってそればかりで、肝心の九条くんの想いを考えようともしていなかった。
『まふゆ、俺は君が好きだ。ずっと、ずっと前から。永遠なんて言わない。だけど許されるのなら、俺はこの生を全うするその時まで、君の側にいたい』
想いが実ったことばかりに目が行って、浮かれて、あの言葉に込められた真意に全く気づかなかった。
彼を変えたのは、他ならぬ私。
そんなのもう自惚れでもなんでもなく、純然たる事実だって分かってたはずなのに……!
「うん、そうだよね。ありがとう、二人とも。私、信じるよ。九条くんを」
ようやく気持ちが落ち着き、心からの笑みで二人にお礼を言う。
すると朱音ちゃんはニコニコと、カイリちゃんは気恥ずかしそうに笑った。
「ま、いっつも元気なアンタが落ち込んでたら、締まらないからな」
「ふふ、そうだよね! まふゆちゃんは〝わたし達の太陽〟なんだから! さ、お料理食べよう!」
「すっかり冷めたな。温め直すか」
雪女なのに太陽とはこれいかにと思うが、その言葉は素直に嬉しい。
私は微笑んで、料理を持ってご夫婦がいる厨房へと向かう二人を見つめた。
◇
『……まふゆも知っての通り、俺はこの身を蝕む病によって長く生きられない。父である紫蘭がいくつまで生きたのかは定かじゃないが、俺の歳から推測すれば、恐らく20代半ばにはこの世を去ったんだろう』
不安が消えた訳じゃない。でも、心はずっと軽くなった。
九条くんが諦めた訳じゃないのに、私が諦めてちゃいけない。
――信じる。私達の〝未来〟を。
私は絶対に九条くんとずっとずっと生きていく。
そう、心に決めた。