「っ、ごほっ!」

「九条くんっ!!」


 ゴホゴホと激しく咳き込む九条くんの背を、私は慌ててさする。
 そして周囲に誰もいない静かなベンチに座らせて、手に氷の妖力を込めた。


「……っ、はぁ、……ごめん、まふゆ」

「ううん。いいの、謝らないで」


 肩で息する九条くんの背中をさすって、私は笑う。

 ……けれど上手く笑えているだろうか?

 だって見てしまったのだ。


『この病はどんなに高名な医者でも治せなかった、原因不明の奇病です。発症したが最後、発作的に妖力が体の中で暴れ出し、異常な発熱と呼吸困難に陥る。そしてそれは年齢を重ねるごとに重症化し、例外なく二十歳前後で発症者は死に至る』


 九条くんの手のひらに付着した、吐血の痕を。


「大丈夫? 落ち着いた? 少し水で首とか冷やすと、楽になるかも。私、ちょっとハンカチ濡らしにお手洗いに行ってくるね」

「ああ、うん。あ、まふゆ……」


 九条くんが何か言いかけたのも構わず、私はすぐさまお手洗いへと駆け込んでザバザバとハンカチを水で濡らす。
 ポタポタと手を濡らしていく、水以外のもの(・・・・・・)を気にしないようにしながら。


「……っ」


 泣くなバカ。泣き虫。
 苦しいのは、辛いのは、他ならぬ九条くんなのに……!!
 弱気にならない、絶対に九条くんを諦めたりしないって決めてるのに……!!


「ううっ、ああ……っ!!」


 分かっているのに……ダメだ、涙が止まらない。