「見てみてよ、コレ!」

「コレだよ、コレコレ!」

「は?? 何?」


 二人はまるで某オレオレ詐欺みたいな言い方で、私に何かを差し出してくる。
 それにまた何か良からぬことでも企んでいるのかと怪訝な目を向ければ、焦れたように夜鳥くんが叫んだ。


「いいから受け取れよ!」

「あーもー、分かったよ」


 仕方なく受け取れば、〝何か〟の正体は何故か見事に殻が真っ黒く焦げた卵だった。
 私は呆れた表情で夜鳥くんを見やる。


「あのねぇ、夜鳥くん。食べもので遊んじゃダメなんだよ? まさか卵に雷でも落としたの? こんなに殻が真っ黒焦げになっちゃってぇ……」

「は……?」


 私の指摘にポカンと虚を突かれたような顔をする夜鳥くん。
 しかしすぐさま一転し、顔を真っ赤にして叫んだ。


「ちっ、ちげぇよ、バカ!! これは元々こういう黒い殻の卵なんだよ!!」

「えっ? どゆこと??」

「雪守ちゃんはハコハナに来るの初めてだもんね。この地獄谷で温泉卵を作ると、こんな風に真っ黒な殻になるんだよ」

「へ、へぇぇー!?」


 雨美くんの説明に私は目を丸くする。
 どうやらこの現象が起きるのは、地獄谷だけでハコハナ全体ではないらしい。なんとも不思議な話だ。


「なんでも地獄谷に充満している鉄分が、温泉で茹でた時に卵の殻へと付着するかららしいね」

「えー鉄分が? だからこんな黒いんだ……」


 またも博識な九条くんから黒い卵の由来を聞き、私は夜鳥くんからひとつ受け取った卵の殻をパリパリと剥いてみる。
 するとなんということだろう! 殻の中からはツルンとピカピカ、真っ白な温泉卵が現れた。


「わー、中身はちゃんと白い! てか固ゆでになってるし! はい、九条くん」

「あ、ありがとう」


 全く半熟じゃない温泉卵を半分に割って片方を九条くんに渡すと、受け取った九条くんが口に入れる。それに私は問いかけた。


「美味しい?」

「ゆで卵の味だね」

「あははっ! そのまんまじゃん!」


 なんだかおかしくて吹き出すと、同じように九条くんも笑う。

 こんななんてことのないやり取りだけど、今日はいつもと違って見える。
 具体的に言うと、以前よりもっともっと甘く優しいものに感じてしまうのだ。

 ……もちろん、その理由はひとつしかない。

 それは私達が昨日ついに互いの想いを伝え合い、恋人同士になったから。
 だからこんな些細なやり取りの全てが尊くて、素敵なものに感じてしまうのだ。