夜が明けてハコハナ旅行も2日目。
 昨日高級ホテルのおもてなしをたっぷりと満喫した私達一行は、今日は部長さんの勧めもあって温泉街からほど近い、ハコハナの有名観光名所――地獄谷(じごくだに)を訪れていた。


「わぁー! みんな見てみて! 山から白い湯気がいっぱい出てるよ!」

「ホントだ! 温泉街で見た比じゃないじゃん! 硫黄の匂いもすっごい!」

「〝地獄谷(じごくだに)〟って、まさに名前通りの景色だよね!」


 朱音ちゃんが指差す方を見上げれば、山肌を覆い隠すほどにもくもくと白い湯気が立ち上っている。


「でも地獄谷ってなぁに? 他の山とはどうしてこんなに違うのかな?」


 朱音ちゃんが山をスケッチする手を止めて呟くと、真っ先にそれに反応したのは木綿先生だった。


「ふふふ。いい質問です、不知火(しらぬい)さん。他の山と何が違うかというと、それはこの地獄谷が活火山であるということですね。その白い湯気は今もなお山が生きている証なんですよ」

「へぇー! そうだったんだぁ!」

「さすが先生、伊達(だて)に教師じゃないじゃん」

「ふふふん! でしょでしょ! 僕だってたまには先生なところを見せますよ! なんならもっと褒めてくれても……」

「ちなみに俺達が立っているのは、〝火山が噴火した時に出来た火口の跡〟だね。この谷にあちこちある噴気孔から湯煙が立ち上る様子がまるで地獄の様相だってとこから、〝地獄谷〟って名前の由来になったらしい」


 木綿先生が得意げに胸を張ったところで、九条くんが先生の話に補足するように付け加える。
 それに朱音ちゃんとカイリちゃんが感嘆の声を上げた。


「ええっ! じゃあ地獄っていうのは、まんま閻魔様(えんまさま)の地獄から来てるんですね! おもしろーい!」

「なんだよ、銀髪の方が先生より博識じゃん!」

「いや俺のは本で得た知識だし、そんな褒められるようなことじゃ……」

「うぇぇぇん! 僕だってうんちく頑張ったのにぃーー!!」

「あはは……」


 九条くんをきゃっきゃっと持て(はや)す女子二人に、木綿先生がわっと泣き出す。
 それに私が苦笑していると、「雪守っ!」と不意に背後から名前を呼ばれ、振り返る。


「あ、雨美くんに夜鳥くん」


 見ればこちらへと飛び跳ねるようにして走って来るのは、私達の輪からいつの間にか居なくなっていた貴族コンビだった。
 結局昨日は一晩中遊んでほとんど寝なかったらしいのに、全く元気なことである。