「……まふゆも知っての通り、俺はこの身を蝕む病によって長く生きられない。父である紫蘭がいくつまで生きたのかは定かじゃないが、俺の歳から推測すれば、恐らく20代半ばにはこの世を去ったんだろう」
「っ」
突きつけられる現実にぐっと押し黙る。
しかしそんな私とは裏腹に、九条くんの表情は何故か晴れ晴れとしていた。
何か吹っ切れたような、そんな表情。
「俺はこの病がある以上、誰かと親しくなるのが怖かった。その先にあるのは、悲しみしかないと思っていたから。ましてや恋なんて、相手の心を大きく傷つけてしまう。……そう、思っていた」
「……うん」
それは舞台の読み合わせをした時にも言っていた。〝妖怪国の王子様の気持ちが理解出来ない〟と言った九条くんの真意が、苦悩が、今ならよく分かる。
「でも、まふゆはそんな俺の考えを覆してくれた。まふゆは俺に言っただろ? 〝好きな気持ちは止められない〟って」
「あ……」
確かに私はそう九条くんに言った。
まだ、彼の病の真実を知らない頃に……。
『きっと短い間だったとしても王子様に愛されて幸せだったと思うよ、お姫様は』
「その言葉をまふゆから聞いた時、俺は思った。止められないものをもう止めなくていいのか、と。君を想うこの気持ちを、君に伝えてもいいのか、と」
「――――……」
その言葉にハッとして、私は九条くんを見つめる。
鮮やかなライトアップの光に照らされた九条くんの唇は、微かに震えていた。
「まふゆ、俺は君が好きだ。ずっと、ずっと前から。永遠なんて言わない。だけど許されるのなら、俺はこの生を全うするその時まで、君の側にいたい」
「……っ、バカッ!」
また一言叫んで、ポロポロと流れる涙をそのままに、私は思い切りその体に飛び込んだ。
「バカバカ! そんなの私だっておんなじだよ! ずっと九条くんの側にいたい! 病気だからって関係ない! この先何があったって、私は九条くんの隣にいる……!!」
「……まふゆ」
力任せにぶつけた体をぎゅうっと抱きしめられて、まるでパズルの欠けていたピースが嵌るように、心がしっくりと満たされていく。
なんだかそれは、まるで始めから私と九条くんがこうなることが決められていたかのようだ。
「私も九条くんが好き。大好きよ……!」
――最後の時までずっと一緒に。
そんな気持ちを込めて、私もぎゅっと九条くんの体を強く抱きしめ返した。
