「…………」


 ドキドキと心臓がうるさい。
 覚悟を決めたはずなのに、躊躇(ためら)ってしまう。

 ――ダメだよ、私。

 言わなきゃ、ちゃんと。
 向き合わなきゃ、ちゃんと。
 この先も、九条くんと共にある(・・・・)ために(・・・)


「……あの……」

「ん?」


 ようやく意を決して私が口を開くと、九条くんも歩く足を止めて、私を振り返った。
 彼の視線が私に注がれるのを感じて、より緊張が走る。


「あ……あのね、九条くん。実は舞台の日、九条くんが倒れた時に真っ先に見つけたのは、私でも朱音ちゃんでもなくて……、九条家の暗部の人だったの」

「!」


 緊張で辿々(たどたど)しくなってしまったが、なんとか告げると、九条くんは少しだけ目を見開いた後、「……そっか」と静かに頷いた。


暗部(彼ら)が俺の監視を続けているのは知っていたけれど、そうだったんだ。じゃあまふゆに暗部は接触してきたのかい? 大丈夫? 何か、嫌なことはされなかった?」

「う、ううん!」


 心配そうに眉を下げて言う九条くんに、慌てて私は首を横に振る。


「何もされてないよ! むしろ私には感謝してるって言われて、その……」


 一瞬言い淀むが、伝えない選択肢はない。
 私は身の内に溜まった苦しさを一気に吐き出すようにして叫んだ。


「私、その暗部の人から教えてもらったの! 九条くんの病気、それがどんなものなのかを……!!」

「……!」


 つ、ついに言ってしまった……。
 言った瞬間、九条くんの体が微かに震えたのが見えたけど……。


「…………」


 私は恐る恐る、明後日の方向に向いていた自身の視線を九条くんへと向ける。
 すると九条くんは私の視線を避けるようにして目を伏せた。