カランコロンと互いの下駄の音が、地面を叩いて響く。

 このホテルには西洋風の広大な庭園があり、私達は今そこを歩いている。
 もうとっくに日付けも変わった時間だというのに、庭には遊歩道に沿って鮮やかなライトアップがされていた。


「浴衣で西洋風のお庭を歩くって、面白いかも。でも本当にキレー……」


 独り言のように呟いて、その神秘的な光景に目を奪われていると、私の前方を歩く九条くんも口を開いた。


「昼間はまだまだ残暑の名残りがあるけど、夜は少し肌寒いね」

「うん。でも私にとっては、これくらいヒンヤリしてる方が心地良いくらいかな?」

「君ならそうだろうね。冬には修学旅行でカムイにも行くし、これからまふゆのイキイキした姿が見られると思うと楽しみだな」

「えへへ、うん。実は修学旅行はすっごく楽しみにしてるんだよね」


 日ノ本帝国の北部に位置する島、カムイ。
 極寒の地のため人口は少なく、独自の文化が発達しているらしいその場所は、雪女を筆頭にした雪妖怪達の大半が暮らしている、いうなれば雪女の聖地。気にならない訳はなかった。


風花(かざはな)さんは元はカムイの出身なんだっけ?」

「うん、らしいね。詳しい話は私も全然知らないんだけどね。でもあのお母さんなら、そこでも楽しくやってたんだろうなぁって思う」

「だろうね。風花さんならどこに行っても、上手くやれそうだ」


 互いにお母さんのことで盛り上がり、クスクス笑う。
 そしてそんな楽しそうな九条くんの横顔を視界に収め、私は歩く足をそこで止めた。