いやいやいや! 〝月が綺麗〟って、別に九条くんのはそのまんまの意味で、深い意味なんてないんだから!! 何勝手に都合のいい解釈してんの!?

 一人で脳内ツッコミをしてあわあわしていると、「まふゆ」と、今度は九条くんが私の名前を呼んだ。


「何……?」


 ドキドキと騒がしい胸の内を隠すように、私は極力ポーカーフェイスで九条くんを見る。
 するとそんな私にふっと微笑んで、九条くんは言った。


「温泉から上がったら、少し外を歩かないか? まふゆに話したいことがあるんだ」

「…………」


 淡く笑う九条くん。
 その月明かりに照らされる姿は、奇跡のように美しい。
 実は神様の使いなのだと言われても、あっさりと信じてしまいそうだ。

 ――でも、

 九条くんはそんな遠い人なんかじゃないのは、私自身がよく知っている。
 今まで数え切れないくらいピンチはあったけど、絶対に九条くんは私を助けに来てくれた。


『交換条件だよ。俺が生徒会に参加する代わりに、君にはここで俺と会ってほしい』

『はぁ!? 何それ!? ヤダよ! もし万が一、二人で居るところを九条くんのファンに見られたらどうすんの!? 私まだ死にたくないよ!!』


 契約から始まった私達の関係。
 最初は嫌で嫌で仕方なかったのに、いつの間にかこんなにも離れがたい、誰よりも大切な存在になってしまった。

 ……そしてそれは、きっと九条くんにとっても。

 こんな風に誘い出されて、その意図が何も分からない訳じゃない。
 以前は自分の気持ちにいっぱいいっぱいで、それに気づく余裕もなかったけれど。
 今なら九条くんが私と同じくらいこの状況にドキドキしているのだって、自惚れじゃなくてちゃんと分かっている。

 九条くんも私と同じ気持ちだって、そう思ってもいいんだよね――……?


「…………うん」


 早鐘のように騒がしい胸を抑えながら、私は頷く。


「私も……九条くんに話したいことがあるの」


 初めての私の恋の行方。
 その答えが出るのは、きっともう間もなく。