「気づいてなかったのか? マジで? 天然すぎだろ」
「うーん、クラス全員分の衣装作成を任せられたのは、さすがに大変だなぁって思ったよ? でもまさかそれが嫌がらせの一環に繋がるなんて、思いもしないじゃん……」
ていうか九条くんと最近仲が良いって……。
「いや言っとくけど、別に九条くんとは全然仲良くなんてないよ!? 普通にただのクラスメイトだよっ!!」
誤解だと叫べば、同じくらいデカい声で叫び返される。
「アホか! そう思ってんのはお前だけだっ! どう考えても疑うだろ!? つい最近まで壊滅的な出席率だった九条様が毎日授業に出て、しかもお前と昼飯食いに行ったり、二人っきりで帰ったりしてればなっ!!!」
「ぐっ……!」
た、確かに短期間で距離を縮め過ぎである! いやでも、昼食や送ってもらった件は不可抗力で……!
実際にはみんなが想像するようなことはなんにも無い。私と九条くんはただの契約関係だ。
でも契約のことは誰にも言えないし……。
「うう……」
思考がこんがらがって、私は頭を抱えて唸る。
するとそんな私の様子をどう捉えたのか、夜鳥くんが「はぁ……」と溜息をついた。
「あのさぁ、雪守。こーゆーこと、あんま言いたくないけど、お前あんまし九条様に深入りすんなよ」
「……え?」
いつになく真剣なトーンで言われ、私は抱えていた頭を上げて、驚いて夜鳥くんを凝視する。
すると夜鳥くんはバツが悪そうに、顔を顰めた。
「九条家は名門一族じゃあるんだが、昔っから〝黒い噂〟が絶えねぇんだ」
「く、黒い噂……?」
何それと聞くが、夜鳥くんは頑なに首を横に振るだけ。内容までは教えてくれないようだ。
「別に九条様に何かあるとは言わねぇよ。でも万が一ってこともある。あの容姿に目が眩んだバカ女以外は、あの方とは最低限の距離までしか近づかないのが、貴族の常識だ」
「貴族の……」
そういえば問題児な夜鳥くんは貴族だった。
能天気な感想が頭を駆け巡ると同時に、なるほどと色々腑に落ちた。
夜鳥くんにしろ、雨美くんにしろ、人間(仮)の私に対しても友好的なのに、どこか九条くんへの態度には距離を感じた。
単純に爵位が上だとか、妖怪としての畏怖だとか、そんな風に解釈していたけど、そうじゃなかったのか。
「そっか、ありがとう。肝に銘じとく」
夜鳥くんは言いづらいことを私を心配する一心で言ってくれたのだ。無駄にしないよう、きちんと言われたことを頭に記憶する。
「――……」
『まぁ、普通気になるだろうしね。ちゃんとした説明は出来ないけど、〝家庭の事情〟……かな』
チクチクと針を動かしながら思う。
その九条家の〝黒い噂〟と、九条くんの言う〝家庭の事情〟は、繋がりがあるのだろうか、と。
