「じゃあまた明日ね。まふゆちゃん、おやすみなさい」

「おやすみー」

「うん、おやすみ。朱音ちゃん、カイリちゃん」


 手を振って、私は割り当てられた自室へと入る。
 まだ朱音ちゃんとカイリちゃんは二人でおしゃべりするらしく、向かいにある朱音ちゃんの部屋へと入って行った。


「ふぅ……」


 それを横目で見ながら自室の扉を閉め、溜息を漏らす。

 ――あれから豪華な夕食を終えた私達は、その後もラウンジに移動して日付けが変わるギリギリまで盛り上がっていた。
 ついさっきまでとても賑やかだった分、こんなだだっ広い部屋に一人きりというのは、どこか寂しさを感じる。


「寝よう……かな」


 夜鳥くんや雨美くん達もまだ遊んでるみたいだけど、明日はハコハナ観光をする予定なのにちゃんと起きられるのだろうか?
 確かにこんな高級ホテルに泊まれる機会なんて、もう二度とあるか分からない。ならば目一杯満喫しなければ勿体ない。
 私だってそう思うのだが、しかしどうにも今はそんな気分になれなかった。

 一瞬今からでも朱音ちゃんの部屋に行くことも頭をよぎったが、結局寝る準備を整えたら、5、6人は眠れそうな巨大なベッドに体を横たえて、私はそっと目を閉じた。


「…………」


 ――カチコチ、カチコチ。

 しかし時計の針が進む音が妙に耳に響いて、眠気は一向にやって来ない。
 別に枕が変わったせいじゃない。
 実は舞台が(・・・)終わって(・・・・)からは(・・・)、ずっとこうなのだ。

 ……原因は分かっている。


『この病はどんなに高名な医者でも治せなかった、原因不明の奇病です。発症したが最後、発作的に妖力が体の中で暴れ出し、異常な発熱と呼吸困難に陥る。そしてそれは年齢を重ねるごとに重症化し、例外なく二十歳前後で発症者は死に至る』


 九条くんの病気。考え込んだってしょうがないのは分かっているのだが、つい一人になると頭に浮かんでしまう。


「はぁ……」


 寝返りを幾度か繰り返した後、ついに寝るのを諦めて、私はギジリと音を立ててベッドから降りる。
 そしてごそごそとカバンからお風呂セットを引っ張り出して、そっと部屋を出た。