「あの……部長さん、お行儀は悪いのかも知れませんが、その……」
「ええ。アタシも同じことを考えていたの。ごめんなさいね、勝負なんて持ち掛けちゃって」
すると言わずとも真意が伝わったのか、彼女はにっこりと私に笑って頷く。
そして未だ泣いたり怒ったりと騒がしいみんなに、柔らかな声で言った。
「さぁ、勝負はここまで。みんな動いてお腹が空いたでしょ? すぐに夕食を用意するわね」
◇
――そうして待ちに待った夕食の時間。
ホテル内のレストランを貸し切りにしてテーブル並べられる、見たことが無いくらい豪勢なお料理の数々。
それに思わず涎が垂れそうになるが、中でも一番目を引くのは、それぞれのお皿に一切れだけ盛られた綺麗に焼き色のついたステーキだろう。
「これが日ノ本牛のシャトーブリアン……!」
「やわらか~い! おいひー!」
「あああ、生きててよかったですぅぅ~!!」
ぱくりとそのお肉を口に入れて、みんなが悶絶する。
その様子を見て、私の口元も自然と緩んだ。
「えへへ」
例え一口分になってしまったとしても、やっぱり独り占めするより、こうして美味しさを分け合う方がより美味しいよね。
「キキッ」
「あ、モン吉もちょっとだけ食べる?」
「ウキキィ!」
「ふふ」
嬉しそうに小さな両手で細かく切ったお肉を抱えるモン吉を見て、私はそっと微笑んだ。
◇
……ちなみに。
このほのぼのした空気の後、例によってバカ舌コンビがハバネロと練乳をみんなの料理にぶっかけてカオスになったことは、忘れず追記しておこうと思う。