「あらあら。ごめんなさいねぇ、モン吉が迷惑かけちゃって。最近飼い始めたのだけど、ちょーっとだけ、やんちゃな子なのよねぇ……」

「あはは。その子、〝モン吉〟っていうんですか」


 騒動の後、温泉から上がった私達は、スイート宿泊者専用のラウンジに集まっていた。
 みんなお揃いの浴衣に着替えて、温かなハーブティーを飲み、湯上がりで火照った体をゆったりと休めている。


「きっと雷護を見て、仲間だと思ったんだね。顔、猿だし」

「おいっ! (ぬえ)と猿を一緒にすんじゃねーよっ!!」

「まぁまぁ、どうどう」


 温泉に現れてめちゃくちゃな騒動を巻き起こした、小さなお猿さん。その正体はなんと、六骸部長のペットだったらしい。
 今は「キキッ」と愛らしく鳴いて、部長さんの大きな肩にちょこんと掴まっている。


「せっかく(くつろ)いでもらおうと思ったのに、本当にごめんなさいね。お詫びと言ってはなんだけど、うちのホテル特製のモンブランを用意したから、よかったら食べてね」

「わぁ、とっても美味しそうです! ありがとうございます、部長さん」


 ラウンジテーブルに並べられた黄金色のクリームが美しいモンブランに歓声を上げ、私達は早速頂く。


「うーん! 美味しーっ!」

「ああ、栗の味が濃厚で美味いな」

「さすが六骸ホテルですねぇ! 僕のお腹の落書きも無事綺麗に消えましたし、六骸さん様々ですよ」


 みんながにこにこと、美味しいモンブランに舌鼓を打つ。

 しかし……、


「……ったく」


 その横で、未だ不貞腐れてたままの夜鳥くんが、不機嫌そうに毒づいた。


「あー、体が全身痛ぇ。その猿のせいで、とんでもねー目にあったぜ」

「それはお猿さんじゃなくて、夜鳥さんが悪いんでしょう? いくら悪さされて怒ったからといって、女湯に飛び込んで来る人がありますか」

「いや不知火(しらぬい)、だからそれは不可抗力なんだって! オレは誓って女湯には一切の興味を示さなかった!」


 プイッとそっぽを向く朱音ちゃんに、夜鳥くんが焦ったように弁解する。


「へぇ……?」


 するとそれを側で聞いていた雨美くんが、どこか胡乱げに目を細めた。