「くぉらぁ!! てめぇ、くそ!! 待てこのクソ猿がぁぁーーっ!!!」
「はっ……!?」
――バッシャーンッ!!!
激しい水しぶきと共に小猿を追いかけるようにして女湯に落ちてきたのは、猿の顔に狸の胴体と虎の手足。そして蛇の尾を持った妖怪……鵺であった。
もろにを温泉の湯を浴びて全身ずぶ濡れのまま、私は呆然とその生き物を見つめる。
「ちくしょう! オレの自慢の髪を思いっきり抜いていきやがって! どこ行きやがった、あのクソ猿……ん?」
先ほどの愛らしい小猿の容貌とは真逆の厳ついボス猿のような顔をした鵺が、毒づきながらキョロキョロと周囲を見渡す。
「…………あ」
そしてそこでようやく今自分がどこに居るのかを悟って、鵺は……。いや、夜鳥くんは一気に顔を青ざめさせた。
「や・と・り・さ・ん?」
「うわっ、待て不知火!! これは不可こ……、うわあああああああっ!!!」
バスタオルを体に一枚巻きつけただけの心もとない姿だが、腕を組んで仁王立ちする朱音ちゃんは勇ましくも恐ろしい。
彼女の全身からは黒い妖力が迸っていて、必死の弁解も虚しく、夜鳥くんの断末魔は温泉中に響き渡ったのだ。
◇
ちなみに、騒動の発端であるお猿さんはというと……。
「ウキー」
「あ、お猿さん」
「アンタどこに隠れてたの?」
夜鳥くんの悲鳴を聞きつけたのか、どこかに逃げ込んでいたらしいお猿さんがまた姿を見せた。
「キキ?」
そしてボロボロになった夜鳥くんをつぶらな瞳で見つめて、キョトンと可愛らしく小首を傾げたのであった。