「あーオレ、こっちの角部屋な!」
「ええっ、雷護ズルい! じゃあボクは反対側の角部屋!」
「うああああああッ!! こんな最高級スイートに泊まれる日が来るだなんて、僕はもうこのまま天に召されてしまうのかも知れません……っ!!」
「木綿先生、それはさすがに大袈裟ですよ……」
どうやら貴族コンビは部屋選びで揉めているらしいが、正直どの部屋も極上過ぎて、揉める意味が分からん。
庶民の感覚としては、その横で感涙しているであろう木綿先生の反応の方がしっくりくる。
まぁ二人にしてみたら、スイートなんて慣れたものなのかも知れないが……。
「そういや朱音なんかは三大名門貴族の妖狐一族なんだし、こういうお高い宿も慣れてるんじゃないのか?」
「そんなっ!! 滅相もないよっ!!」
カイリちゃんの指摘に、私も一瞬確かに……と思ったが、しかし朱音ちゃんはブンブンと首を大きく横に振って否定する。
「〝妖狐一族〟って一口に言っても、わたしはただの血の薄い末端の半妖妖狐だもん! 本家の神琴様とは、天と地ほども違うよ! 特にわたしの場合は暗部だったから、暗部長の言いつけで野宿なんかもざらだったし! だからこんな立派なお宿に泊まれて、すごく嬉しい!」
「野宿って、マジ??」
「あはは……」
朱音ちゃん、前もそんなこと言ってたけど、一体暗部でどんな経験を……?
ていうか暗部長って、この前朱音ちゃんに化けてたあの狐面の女性のことだよね?
穏やかそうに見えたけど、実は結構怖いのかな……?
南国のティダでもさすがに野宿してる人はいなかった。カイリちゃんが困惑するのも分かる。なんだか妙な雰囲気になったので、私は空気を変える為に明るく声を上げた。
「まぁ何はともあれ、今日はこんな素敵なお宿に泊まれてラッキーってことで、目一杯楽しもうよっ!」
「そうだな。もう二度とあるか分からない機会なんだし、細かいことは忘れて満喫するのがいいな!」
「うんうん! じゃあさっそく温泉に行こーよ! ハコハナ温泉に入ると、お肌がツルツルピカピカになるんだって!」
「へぇ! それは楽しみー!」
そういうことで話はまとまり、一旦それぞれの部屋に戻って準備を整えた後、また合流して温泉へと向かう。
どうやらスイートルームの宿泊者には、専用の浴場が用意されているらしい。
それにまた驚きつつ、西洋風のお城の裏手から続く離れに向かうと、ちょうど九条くん達男子組とばったり鉢合わせた。