「ぶ、部長さん、『ホテルで待ち合わせね』って言ってたけど、もしかして場所間違えたんじゃない!? こんなとこ、一学生が泊っていい場所には到底見えないんだけど……!?」
そもそも黒塗りの高級車に乗せられた時点でおかしいと気づくべきだった……!
しかし頭を抱えていると、何故か九条くんが冷静な表情で「いいや」と首を横に振った。
「間違えてなんかないさ。ほら、あのホテルのロゴ、六つの骸を重ねた星だ。あれは六骸ホテルの証なんだよ」
「えっ、〝六骸〟!?」
「ええ。全国展開している、日ノ本帝国一の五つ星ホテルグループですね。その洗練されたおもてなしは一度体験したら二度と忘れられず、三大名門貴族どころか、皇族も御用達だと聞きます」
「そ、それって――……」
うっとりと語る木綿先生の言葉にハッとする。
――豪華過ぎる演劇部の部室。上質な素材で作られた衣装に、本物の宝石が散りばめられたティアラ。
その絶対に部費だけでは賄えない資金源がずっと不思議でならなかったが、つまりその答えはこういうこと!? 思い至った事実に、驚きのあまり口をパクパクさせていると――。
「ああっ!! みんなぁ、待ってたわぁぁーーんっ!!」
聞き覚えのある独特の喋りが聞こえ、前方を見やる。
すると、今日は爽やかな萌黄色の着物を着た大柄なオネェさん――もとい演劇部部長、六骸千亞希氏がホテルのエントランスホールから出て来て、にこやかに近づいて来た。
その背後には、恐らくホテルマンであろう燕尾色の制服を着た人達をズラッと引き連れている。
「部長さん……」
「マジかよ……」
あまりのことに私と同じく呆然と部長さんを見つめている、朱音ちゃんとカイリちゃん。
そんな彼女達に微笑んで、部長さんがバチンっとウインクした。
「六骸ホテルへようこそ! 今日のアタシは演劇部の部長ではなく、六骸グループの御曹司として、みんなに最高にラグジュアリーなおもてなしをしちゃうわよっ!」