たくさんの方舟(はこぶね)が離着陸する、週末の飛行場。
 そこを抜けて隣接する展望台へと向かった私は、鼻にツンとつく硫黄の匂いをいっぱいに吸い込んで歓声を上げた。


「わぁーーっ!! ここが帝都民癒しの地、ハコハナ温泉郷かぁ……!!」

「すっごいよねぇ! 白いもくもくがあちこちいっぱいだよ! あれって煙?」

「いや、温泉の湯気だな。さすが温泉郷、至る所で温泉が湧き出てるんだ」


 展望台から見えるのは、ノスタルジックな木造建築の街並みが情緒あふれる温泉街。週末とあって、浴衣を着た観光客がたくさん街歩きをしている。
 その常とは違う雰囲気に、私の横に立つ朱音ちゃんと九条くんも、いつもよりも口調が弾んで楽しそうだ。


「はぁー、着いた着いた」

「あ」


 その様子が微笑ましくてクスリと笑ったところで、ちょうど後ろから聞き慣れた声と足音がした。


「やっぱ帝都と違って、空気がうめぇーぜ!」

「いいよねぇ、ハコハナ。何度行っても飽きないよ」

「何より温泉が楽しみですっ! 日頃の疲れを癒す絶好のチャンスですからね!! ついでにこの、未だくっきりと残っている、お腹の落書きも消したいっ!!」

「あ、まだ消えないんだ? 油性マジックで思いっきり強く書いたからかな? あの時は緊急事態だったとはいえ、悪かったな、先生」


 振り返れば夜鳥くん、雨美くん。それに木綿先生にカイリちゃん。今ではすっかりお馴染みとなったメンバーも、荷物を片手にこちらへ向かって来る。


「けど部長さんが弾むって言ってた舞台協力のお礼が、まさかハコハナ旅行だったなんてね」

「ねっ、嬉しいよね! こんな有名な温泉地に、みんなで泊まれるんだよ!」

「うん。このワイワイ賑やかな感じ、なんだかティダを思い出すよ」


 瞳をキラキラさせてはしゃぐ朱音ちゃんに可愛いなぁと頬を緩めながら、私は舞台後に行われた打ち上げでの出来事を思い出す。

 今私達が居るのは、帝都にほど近い場所にある、人気の温泉地ハコハナ。
 どうしてそんな場所に居るのかというと、それは全て部長さんの計らいによるものだった――……。