雪女ですがクラスのイケメン妖狐の癒し係になりました



 ◇


『妖怪国の王子と人間国の姫が恋仲だったって!?』

『しかも王子は重い病、姫は半妖だと!』

『許せない! ずっと私達を騙してたんだわ!!』


 私の胸中はともかく、物語はその後も順調に進み、いよいよクライマックスへと突入した。
 王子と姫の秘密がついに国民達にバレ、二人は追われる身となってしまうのである。

 姫は王子の手に引かれ、ドレスの裾をたくし上げて必死で森の中の道なき道を走る。


『はぁ、はぁ……!』

『姫っ! この森を抜ければ、国境を越えます! どうかもう少し頑張ってください! ……うっ!!』

『王子様!?』


 突然胸に手を当てて苦しみ出した王子に、姫は慌ててその顔を覗き込む。


『……っ!? 王子様っ!!』


 するとその顔色はゾッとするほどに土器色に染まっており、ただ事じゃないことが瞬時に理解出来た。


『王子様っ!! 王子様っ!!』

『ひ、め……』


 叫んで胸に(すが)りついてきた姫の紫色を髪を王子は愛しそうに撫で、呼吸をするのも辛いだろうに必死で声を絞り出す。


『姫……。どうやら私の命はここまでのようです。追手が来ます。どうか……貴女だけでもお逃げ、くださ……』

『そんな! 貴方を置いてなんていけないわ! どうか、どうか気を確かにして!!』

『ひめ……』

『王子様……っ!!』


 と、ここで気を失ってしまった王子に姫が口づけをするという流れだが、私がするのはあくまでもフリだ。

 そして口づけ(フリ)の後、姫が涙を零しながら王子の顔を覗き込むと、固く閉じられた王子の(まぶた)がフルフルと震える。


『…………ひめ……?』

『!! ああ、王子様! よかった……本当に……』


 なんと口づけによって息を吹き返した王子に、姫は奇跡が起きたのだと歓喜する。

 ……しかし、その喜びも長くは続かない。


『王子様、王子様……』

『姫……貴女を愛しています。……心から』

『あ……』

『…………』

『あ……あ……』


 今度こそ完全に事切れた王子様。
 そんな愛しい人を腕に抱き、()は泣き叫ぶ。


『ああ……っ、いやあああ!!! 王子様ぁ!! どうか目を覚まして!! お願い、お願い、起きて……!! ……っ、」


 するとどうしたことだろう?
 打ち合わせの時には予期していないほどの大粒の涙が、ボロボロと私の頬をつたった。

 どうしよう、せっかくの部長さん渾身のメイクが全て落ちてしまう。
 そう思うのに、涙は止まらない。


「……まふゆ?」


 それに九条くんも不審に思ったのか、閉じていた目を薄っすらと開いた。