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『まぁ! ぐったりしてどうしたの!? 貴方は妖怪国の王子様じゃありませんか!』
私――人間国のお姫様は、城の裏庭のセットを背景に、ぐったりと倒れ込んでいた妖怪国の王子様を慌てて抱き起す。
すると王子様は耳と尻尾のついた姫を見て、その美しい金色の瞳を大きく見開いた。
『……そういう君は人間国の姫君だな。その耳と尻尾……まさか妖怪の血が?』
『えっ! ああっ、いけない! 驚きのあまり隠すのを忘れてしまっていたわ!』
城の者以外には決して半妖としての本性を露わにしてはいけないと言い聞かせられていたにも関わらず、この失態。
姫はサッと顔を青ざめさせるが、彼女の正体を知った王子様の表情は穏やかだった。そのまま彼は目を細めて美しく微笑む。
『先ほど夜会で見た無理に澄ました姿よりも、その姿の方が君の愛らしさが出ていて素敵だな』
『え……?』
思いがけない言葉に、姫の頬はポッと赤く染まる。
そして彼女はそう言う王子様こそ、普段の何にも表情を動かさない冷めた姿よりも、今の優しい姿の方がよほど素敵だと感じた。
『また次の夜会でもここで会えないだろうか?』
『は、はい。わたし……、お待ちしておりますわ……』
これが互いに秘密を抱える王子と姫の出会いであり、二人がひっそりと愛を育むこととなったキッカケ。
――そして密やかな逢瀬を重ねたある日のこと、
『姫、病は確実に私の身体を日々苛んでいる。恐らく貴女と添い遂げることは叶わないでしょう。けれどそれでも私は貴女に伝えたい。姫、私は貴女を愛してる』
初めて出会った裏庭で、王子が姫に囁くように秘めた愛を告げる。
『王子様……。はい、わたしも例え短い時であったとしても、貴方と共に居たい』
それに姫は涙ながらに王子の想いに応える。
「…………」
そして私はというと、演技をしながらも、頭の中はあることでいっぱいだった。
『だって、一度自覚したら止められないんだもの。〝好き〟って気持ちは』
以前私が九条くんに対して言った言葉。
あの時は相手のことばかり慮る九条くんが切なくて、そう伝えたけれど……。
『そしてそれは年齢を重ねるごとに重症化し、例外なく二十歳前後で発症者は死に至る』
私はもう一度、九条くんに同じことを言えるのだろうか?
二十歳を迎える頃には命を落としてしまうという、彼に――……。
