雪女ですがクラスのイケメン妖狐の癒し係になりました



 ◇


「!! 九条くんっ!!!」


 結論として、九条くんはいつもの保健室にいた。

 まるで初めて互いの秘密を知った時のように、真っ白なカーテンで仕切られたベッドで眠っていたのだ。

 でも、その時と違うことがひとつ――……。


「……九条くん?」

「…………」


 おかしい。いつもは苦しそうに荒げている呼吸音が全くしない。

 それに……。


「何これ、血……?」


 本当に微かにだが、九条くんの唇の端に赤いものが付着している。
 それは赤黒く、私の目には血にしか見えなかった。


「なんで……」


 ザワザワと静まらない胸騒ぎに突き動かされるまま、朱音ちゃんが見ているのも構わず、私は先ほど舞台袖でしたように九条くんの胸に耳を当てる。
 すると体はとても熱いものの、トクントクンと鼓動を刻む音がして、私はホッと胸を撫でおろした。


「九条くん、今楽にしてあげるからね」


 心を落ち着かせ、いつものように手に氷の妖力を込めて、九条くんの額に触れる。
 瞬間、火のように熱かった九条くんの体から、みるみる内に熱が引いていき、症状は鎮まった。

 ――そう、いつものように。


 でも……、


「……九条くん?」


 その美しい金色の瞳は固く閉じられたまま。
 一向に目を覚まさない。

 発作を鎮めても、なかなか目覚めない。
 こういった現象が起きるようになったのは、いつからだっただろう?

 最初に気づいたのはティダだった。皇帝陛下に貴賓室へと連れられた時。
 そしてそれは帝都に戻って以降も度々起こり、むしろその時間は確実に延びている。


「っ、」


 不安な気持ちを落ち着かせるように、首にかけたホタル石を衣装の上から撫でる。

 と……、


「……まふゆちゃん」

「あっ! ごめんね、朱音ちゃん。九条くんはきっと、もう少ししたら目を覚ますはずで……」

「――――ええ」


 朱音ちゃんも一緒に居たことを思い出し、私は慌てて彼女を振り返る。
 しかしその瞬間、彼女のまとう空気が突如一変した気がした。


「雪守まふゆ殿。神琴様の治癒、感謝します」

「!?」


 驚き身構えるが、遅い。
 朱音ちゃんだったはずの人物は、一瞬にしてあの九条家で見た狐面を被った巫女服の女性へと姿を変えていたのだ。