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「あのっ! 九条くん、まだ戻って来ないんですか!?」

「ええ、一体どうしたのかしら……?」


 私の言葉に部長さんが困惑したように頷く。

 順調に進んでいた舞台に、ここに来て初めて問題が発生した。
 先ほどお手洗いに行ったきり、いつまで経っても九条くんが戻って来ないのだ。

 本当にどうしたというのだろう? 
 まさか何かトラブルにでも巻き込まれたんじゃ……?

 先ほど少し様子がおかしかったことを思い出し、今更ながらに声を掛けなかったことを悔やむ。


「私、探してきます……!」

「いいえ、副会長さんはもう出番だし、ここを離れないで。今、朱音が探しに……」

「まふゆちゃんっ!!」

「朱音ちゃん!?」


 部長さんから名前が出た瞬間、当の朱音ちゃんが血相を変えて舞台袖に飛び込んで来た。
 そしてその勢いに驚く間もなく、朱音ちゃんは荒い息のまま私に抱き着く。


「!? 一体どうしたの、朱音ちゃん!? 九条くんは――……」


〝見つかったの?〟と問おうとして、言葉が詰まった。
 何故なら朱音ちゃんのチョコレート色の瞳が、涙で濡れていたからだ。

 ただならぬ様子に嫌な予感がして、ドクンドクンと心臓が早鐘のように騒がしくなる。
 すると涙で顔をぐしゃぐしゃにした朱音ちゃんが私を見上げ、唇を震わせて叫んだ。


「神琴様が…、神琴様が大変なの!! まふゆちゃん、すぐに着いて来て……っ!!」