「うふふ。やっぱりカイリをスカウトしたのは大成功だったわね」
「あ、部長さん」
ちょうど朱音ちゃんと入れ違いに舞台袖にやってきた部長さんが、舞台を覗き込んでそっと呟く。
「カイリの歌を初めて聴いた時は衝撃だったわ。こんなに美しい歌声の持ち主と一緒に舞台をやりたいって衝動が、アタシの体中を駆け巡ったの」
「はい、そう思うのも分かります」
やっぱりカイリちゃんの歌はすごい。
その姿は初舞台とは思えないくらいとても堂々としていて、観客達もうっとりと聞き惚れているのが見えた。
それになんだろう。上手く言えないが、以前聞いた時以上に声に張りがあって、歌に力がある。
表情もイキイキとしていて、見ているこっちまで楽しい気持ちになってしまう。
『ありがとう、まふゆ。アンタのお陰で、やっとあたしも前に踏み出せそうだ』
もしかしたらあの時の彼女の心境の変化が、歌にも良い影響を及ぼしたのかも知れない。
そう考えて微笑んでいると、「ああ、そうだわ」と部長さんが声を上げた。
「この先しばらくは国民のパートが続くし、生徒会長さんと副会長さんはお手洗いに行くなら今の内よ。その後はラストまで王子と姫は出ずっぱりだからね」
「なら俺、行っておこうかな」
「あ、うん」
そう言って九条くんが舞台袖から去って行くのを見送る。
「……?」
しかしチラリと見えた横顔が、どことなく苦し気に見えたのは気のせいだろうか?
心なしか朱音ちゃんから貰った紙コップを持った手も、小刻みに震えてるような……?
「…………」
――でも、氷の妖力が必要な時は九条くんはすぐ私に言うし、今も発作を起こしているようには見えなかった。
きっとさすがの九条くんも、慣れない舞台で疲れたのだろう。
そう結論づけて、私は舞台に視線を戻したのだけれど……。
私はこの時の選択をすぐに後悔することになる。
