女子達の刺すような視線を思い出し、ぶるっと寒気をもよおしていると、不意にクスクスと笑い声がして慌てて振り返る。
すると目の前には、調光室で舞台照明を担当しているはずの朱音ちゃんが立っていた。
「あれ? 朱音ちゃん? 調光室の方には居なくていいの?」
「うん、今はちょっとだけ他のみんなに任せて休憩。はい、お水」
「あ、ありがとう」
水筒から紙コップに注がれた水を受け取って、ゴクリと一気に飲み干した。
どうやら自分でも気づかない間に喉がカラカラになっていたようだ。
「おかわりいる?」
「あ、うん」
とぷとぷと空の紙コップに注がれる水を見ていると、朱音ちゃんが「そうそう」と話し出した。
「さっきの話だけどね。まふゆちゃんが命を狙われたりすることはないよ。例の退学騒動の件で、みんなまふゆちゃんのことは一目置いてるもん! そもそもまふゆちゃん以上に神琴様とお似合いの人なんて存在しないんだから、文句のつけようも無いんだけどね!」
「いやいや、それは買い被り過ぎだよ……」
朱音ちゃんが褒めてくれるのは嬉しいが、さすがに持ち上げられ過ぎて恥ずかしくなる。
「あ、その顔本気にしてない? でも本当のことなんだよ! それにまふゆちゃんの命を狙うなんて輩が万が一現れたとしても、その前にわたしが完膚なきまでに叩きのめすから安心してねっ!!」
「そ、それはなるべく最終手段でお願いしたいかなぁ……」
まるで天使のように可憐に微笑む朱音ちゃん。
しかしその手には黒い妖力が禍々しく揺らめいていて、私は乾いた笑みを浮かべるしかない。
時折暴力ちっくな面を仄見せる朱音ちゃんも可愛いが、やっぱり普段のほんわかした彼女のままでいてほしい……かな。
「――あれ? 朱音?」
「あ、神琴様! お疲れ様です!」
と、そこで王子のシーンを終えた九条くんが舞台袖へと戻って来た。どうやらすっかり朱音ちゃんと話し込んでしまったらしい。
朱音ちゃんはまた水筒から紙コップに水を注ぎ、今度は九条くんに手渡した。
「はい、どうぞ神琴様。たくさん台詞をしゃべりますし、水分補給はキッチリしてくださいね」
「ああ。ありがとう、朱音」
「じゃあまふゆちゃん、わたしはそろそろ調光室の方に戻るね。この後も応援してるから、頑張ってね!」
「うん、ありがとう! 朱音ちゃんも頑張ってね!」
パタパタと去っていく後ろ姿に手を振ると、そこで不意に綺麗な歌声が私の耳に届いた。
「――――――」
「あ、この声」
「魚住さんだね」
反対側の舞台袖にスタンバイしていたカイリちゃんが、今は舞台の中央で情感たっぷりな歌声を響かせている。
