「あっ……!?」

「……どう? 俺が緊張してるって、確かめられた?」

「え、あ……、う、うん……」


 困ったように言う、九条くんの頬がほんのりと赤い。
 それにつられる様にして、私の頬も熱くなった。


「ちゃんと、確かめられた……よ」

「……そっか」

「ん……」


 お互いそれ以上言葉が続かず黙り込んでしまう。

 ヤバい、今更ながらに恥ずかしさがこみ上げてきた……! 
 九条くんが本当に緊張しているのか知りたい気持ちが先行して、つい大胆な行動を取ってしまった……!


 ――パチパチパチ


「!!」


 頭の中でわたわたしていると、舞台から大きな拍手が巻き起こる。
 どうやら部長さんの挨拶が終わったらしい。艶やかな濃紺の着物を着た部長さんが、舞台袖へと戻って来た。


「さぁ、いよいよ本番よ。準備はいい? まずは姫のシーンからよ! 副会長さん、みんな、よろしくねん!」

「はいっ!!」


 いよいよ出番! 
 まださっきの余韻でドキドキする胸を落ち着けて、私はクリーム色のドレスを(ひるがえ)し、城の侍従役の部員達と共に舞台へと足を踏み入れる。


「――――っ!」


 瞬間、大勢の観客が一斉に私を見て、無意識の内にゴクリと唾を飲み込んだ。
 文化祭のステージや後夜祭の時の比じゃない、張りつめた空気。私の緊張はピークに達する。


「……まふゆ」

「!」


 すると舞台脇から微かに私を呼ぶ声が聞こえ、視線をそちらに向ければ、九条くんと目が合った。


「頑張れ」

「……!」


 それはほとんど声になっていない、小さな囁き。
 でも私にはハッキリと聞こえた。

 耳に届いた瞬間、体の強張りがホロホロと解けていく心地がする。


 ――嬉しい。


 緊張は解けたというのに、心臓はいまだドキドキと高鳴ったままだ。
 これではまるで先ほど聞いた九条くんの心臓の音のよう。

 そこまで考えて、九条くんも緊張じゃなく、私にドキドキしていたのだったらいいのになぁ。

 なんて思った。