「もう着替えた? わたし入ってもいい?」

「あ、うん。いいよ」


 声を掛けるなり扉が開き、朱音ちゃんが顔を覗かせる。そして私を見るなり、ワッと歓声を上げた。


「わぁっ、やっぱりすごく綺麗……! まふゆちゃん、本当に本物のお姫様みたいだよ!!」

「うんうん。副会長さんは元が良いから、着飾るとまるで皇族みたいな気品が出るわよねぇ」

「え、そんな、皇族は褒め過ぎですよ……」


 褒められて全く悪い気はしないが、こんな田舎出の小娘をつかまえて皇族とは、さすがに恐れ多すぎる。
 それでもなお綺麗だと褒めてくれる二人に照れていると、また扉が開いて今度はカイリちゃんが部長さんを呼んだ。


「部長。銀髪の方も衣装着たから、見てほしいってさ」

「ああ、ありがとうカイリ。すぐに行くわ」

「お、まふゆは姫の衣装着たんだな。似合ってんじゃん」

「そう言うカイリちゃんこそ、その衣装すごい綺麗だよ! まるでプロの音楽家さんみたい!」


 衣装部屋に入って来たカイリちゃんも衣装合わせの最中で、彼女は上品なホルターネックの水色のロングドレスを着ていた。スラっと背の高いカイリちゃんにとてもよく似合っている。

 お化粧も普段のギャルメイクとは違った清楚なものなので、いつもの彼女を知る人が見たら、きっとそのギャップに驚くであろう。


「カイリちゃんが舞台の劇中歌を全部歌うんだよね?」

「ああ。今までは音楽室で練習してたけど、今日からはアンタらと一緒に練習するから」

「ホント!? 久しぶりに生歌聴けるの楽しみ!」


 私はカイリちゃんの言葉に、パッと顔を輝かせる。

 舞台〝人間国のお姫様と妖怪国の王子様〟は音楽劇だ。
 カイリちゃんは役がある訳ではなく、場面の切り替わりの都度シーンに合った曲を歌い、舞台を盛り上げるのが役割である。

 彼女も初舞台だというのに、たった一人で10曲も歌うというのだから、本当にすごいと思う。


「アタシが見込んだ通り、カイリの歌声は圧倒的よ。副会長さん達はくれぐれも呑まれないようにね。物語の主役はあくまでもアナタ達なのだから」

「はは、頑張ります」


 正直カイリちゃんの歌の凄さは知っているだけに、呑まれない自信はあまりない。
 でも主演がそんな情けないんじゃあ、カイリちゃんを始め、みんなの努力を無駄にしてしまう。

 泣いても笑っても舞台まであと一週間。精一杯頑張らなきゃ……!


「さ、じゃあアタシは会長さんの方を見てくるわね。副会長さん達は、先にステージに行ってて頂戴。今日はこのまま、衣装で通し稽古よ!」

「はいっ!」


 私は頷いて、男子が衣装合わせをしている隣の練習室へと向かった部長さんを見送る。


「?」


 するとそこで不意に感じる視線。
 それに振り返ると、何故か朱音ちゃんがじっと私の頭を見上げていた。