久しぶりの生徒会で盛り上がった次の日の放課後。
 私は衣装合わせの為、練習室の隣にある衣裳部屋に用意されたお姫様の衣装に袖を通していた――。


「わぁ……っ!」


 動くたびにふわっと可憐に揺れる美しいドレスのフリル。それに私は感嘆の声を上げる。


「どうかしらん? 事前に聞いたサイズの通り仕立ててみたのだけど、キツいところは無い?」

「はいっ、大丈夫です! ありがとうございます、部長さん。こんな繊細なドレス、短期間で仕立てるのは大変だったんじゃないですか?」


 部屋にある大きな全身鏡を見ながら、私はふわふわと繊細なレースが幾つも重ねられた淡いクリーム色のドレスの裾をふわりと持ち上げる。
 裾にたっぷりとボリュームがあるのに、軽くて動きやすいことにビックリだ。

 こんな素晴らしいものを前にしておこがましいが、少なからず裁縫の心得のある者として、部長さんの腕前はリスペクトしかない。


「うふふ、こんなの副会長さん達の頑張りに比べたら全然よぉ! はい、そしてこれが最後の仕上げ」

「わ、綺麗!」


 そう言ってふんわりとハーフアップに編み込まれた頭にそっと乗せられたのは、キラキラと輝く金細工のティアラだった。
 散りばめらた鮮やかな紫色の石が、照明に照らされて美しく(きら)めいている。

 思わずうっとりと鏡を見つめていると、私の後ろに映る部長さんが「副会長さん」とこちらを呼んだ。


「部長さん?」


 その表情はいつになく真剣で、私は鏡から顔を上げて部長さんを振り返る。


「……実はアタシね。朱音の推薦があったとはいえ、未経験の貴女達にお任せする以上、当初思い描いていた舞台のクオリティには届かないことを覚悟していたの」

「あ……」


 それはそうだろうと思う。

 素人がたった一ヶ月で主演として舞台に立つのだ。部長さんはネガティブなことは決して口に出さなかったが、内心は私と同じくらい不安でいっぱいだったに違いない。


「でもそれがなんということかしら! 二人とも……特に副会長さんはあっという間にメキメキ上達して、今じゃアタシの想像なんて軽く飛び越えてしまったわ! もうアタシの中で〝人間国の姫〟はアナタしかいない! アナタが演じてこそ、アタシの舞台は完成するわ!」

「部長さん……!」


 嬉しい言葉に不覚にも涙腺が緩む。
 なにせズブの素人がこの2週間、記憶を失くす勢いで死ぬ気で頑張ってきたのだ。今までの苦労が走馬灯のように脳裏を駆け巡っていく。


「あらあら、まだ泣いちゃダメよ。泣くのは本番に取っておきなさい」

「う、……はい」


 それもそうだと笑って頷くと、ちょうど「まふゆちゃーん」と、部屋の外から朱音ちゃんが私を呼ぶ声が響いた。