「夜鳥くん。どうしたんです、急に?」
「いや、別に理由はねぇけど、純粋になんでかなーと思って」
「それは……陛下にお子様がおられないからじゃないの?」
私がそう答えると、九条くんが「いや」と首を横に振った。
「陛下はご結婚されていることは明言されてるけど、お子様の有無については明かされていない」
「そうなの?」
「ああ。しかも陛下は愛妻家を公言して憚らないのに、当の皇后様の詳細は不明。一度だって公の場に出て来たことはない」
「へぇー……」
ずっとティダの片田舎に住んでいた私には知るよしも無かった情報。
そういえばお城で陛下に会った時、あの怖い鬼の宰相さんに「私は妻一筋だ」と言っていたっけ。
「日ノ本帝国の情勢が安定したここ数百年はずっと、皇帝の第一子が皇位を継いできたのにね。お子様の有無も公表されないなんて、確かに前代未聞かも」
「やっぱりお子様がおられないからじゃねーか? 居て隠す理由がねぇもん。それか皇后陛下が人間じゃなく、実は妖怪だから公表出来ねぇとか……?」
「え……」
「雷護、それは絶対無いでしょ! 人間と妖怪の均衡を崩さない為に、皇族は代々人間としか婚姻を結ばない〝しきたり〟なんだからさ!」
「だよなぁ!」
「もーっ! 夜鳥くんは時々突拍子のないことを言いますねぇ!」
変なこと言っちまったなと夜鳥くんが笑うと、それにつられてみんなもドッと笑う。
――でも、
『やっぱりお子様がおられないからじゃねーか? 居て隠す理由がねぇもん。それか皇后陛下が人間じゃなく、実は妖怪だから公表出来ねぇとか……?』
何故だか私は笑えず、生徒会が終わっても、寮に帰っても、ずっと夜鳥くんの言葉が耳に残っていた。